#666 うどんの本2冊・・・「うどん手帖(井上こん著)」&「ノブうどん帖(一井伸行著)」

うどん関連の本を2冊ご紹介します。奇しくもよく似たタイトルですが、関連はありません。井上こんさんは、年間500杯のうどんを摂取する新進気鋭の女性うどんライター。一方、一井伸行さんは、永年文房具メーカーに務めるサラリーマン、そして趣味で定期的にうどんワークショップを開催しています。以下この2冊を簡単にご紹介します。

【うどん手帖】
全国のうどん屋さんを渡り歩き、北は北海道のザンギうどんから、南は沖縄のかけうどんまで、こんさん独自の目線で、50店舗のうどん屋さんを厳選しました。ちなみにザンギとは、鶏肉を生姜・醤油・にんにくのタレに漬け込んで揚げた、唐揚げのことです。さぬきで言えば、かしわ天もしくは、とり天うどんみたいな感じでしょうか。それにしても西へ東へ、うどんを食べ歩くとは、なんと贅沢な企画。お仕事なのでそれなりのご苦労はあるでしょうが、羨ましい限りです。

こんさんは、小さい頃から根っからのうどん好きで、松戸駅の商業ビル内の「杵屋」に連れていってもらうのが楽しみで仕方がなかったと、本のまえがきにあります。余談ですが、ここ坂出にもかつて杵屋というローカルのうどん店がありました。その昔、ここで修行をした青年が開業するとき大将に、「杵屋という屋号を使うてもええやろか?」と聞いたところ、「そらかまへんけど、お前は弟子やから、看板は三本杵ではなく、二本杵にしときな」というエピドードを思いだしました。

話は戻り、こんさんは高校・大学になると益々うどんにのめり込み、学食でも定番のカレーや定食には目もくれず、ひたすらうどんばかりを注文します。通常、若い頃はラーメンみたいなこってり系が好きで、加齢とともにうどんやそばのあっさり系に移るのが定番ですが、こんさんは、根っからのうどん人間として生まれてきたようです。うどんに対する考え方も、地域に偏らず、全国区それぞれ地域に根ざした特徴あるうどんがあるといいます。つまり香川がうどん県であること、そして博多、大阪、伊勢のうどんがそれぞれに柔らかいのにも理由があり、そいう意味でうどんは全国区の日本の伝統食品です。

この「うどん手帖」には、うどん県からは4店のうどん店が、ピックアップされています。どのうどん店も誰もが知っている名店ですが、通常のうどんランキングとは微妙に異なり、こんさんの視点で選出するとこんな感じになるのか、と得心しました。つまりうどんそのものの特徴に重点を置いた、こんさんならではのチョイスです。「なるほど他のうどん屋さんも、なんとなくそんな感じかな」と想像力をかきたてられました。

【ノブうどん帖】
ノブさんのうどんとの出会いは、高校3年生のとき、お父さんが脱サラで始めたうどん店です。当時、大阪ではまだ珍しかった手打ちうどんの美味しさが評判を呼び、親父の店「うどん一番」は開店数ヶ月で、超人気店になりました。そこで学業の合間に手伝い始めたノブさんは、始めは接客にオドオドしていましたが、やがてうどんの魅力に目覚めます。初めて自分で打った素うどんを一口食べたときの驚きは、今でもはっきりと覚えていると言います。

ノブさんはサラリーマンになってからも、自分で打った手打ちうどんの味が忘れられず、やがてうどんのワークショップ「NOBUうどん」を始めます。単に手打ちうどんを極めるだけでなく、出汁にもこだわります。とりたての出汁は、得も言われぬ良い香りで、昆布の甘みと節類の旨味が口の中一杯に広がります。また打ち立て切りたてのうどんは、表面はふんわり柔らかく、中心はコシがあり、噛みしめるほどに小麦のほのかな甘味を感じます。ノブさんはこの感動を皆さんに伝えるためにワークショップを続けています。

「ノブうどん帖」には、ノブさんがうどんに出会い、ワークショップを始めるに至った経緯が、興味深く紹介されています。また丁寧に説明されているノブさん独自のカエシとだしのとり方には、おもわずゴクリとします。きちんととった出汁の美味しさと魅力は、子どもたちにもすぐにわかります。普段は相手にされない甥っ子や姪っ子も、うどんのときだけは、ノブさんの言うことをよく聞きます。うどんの力は偉大です。