#667 アメリカの新ニッチ市場

アメリカでは2019年現在、166の製粉工場があり、年間2500万tの小麦を製粉し、2015万tの小麦粉を生産しています(製粉講習会資料)。人口3.3億人とすると一人あたりの年間消費量は61kg(日本は38kg)。典型的な装置産業である製粉産業は、大手企業による占有率が高く、特にアメリカではその傾向が高くなっています。多くの工場は500tpd(ton per day=24時間での製粉能力)以上であるにもかかわらず、44tpd(ton per day=24時間での製粉能力)以下の製粉工場がまだ24工場もあります。そういった小規模工場の経営事例が業界紙に掲載されていたので、簡単にご紹介します。

ワシントン州バーリントンにあるケルンスプリング製粉所(Cairnspring Flour Mill)は、2017年に操業を開始した新しい製粉工場です。ここでは小麦の風味を重視したイェコラ・ロホ(Yecora Rojo)とオーガニック・エクスプレッソ(Organic Expresso)という硬質小麦を製粉し、灰分0.85クラスの強力粉を製造しています。石臼を使用することで、表皮周辺部分も挽き込んだ風味のある小麦粉を製造できますが、石臼だけでは挽砕能力が不十分です。そこでロール製粉機を組み合わせたハイブリッド方式を採用することで、粉砕能力を時間あたり1.2tとすることが可能になりました(それでも製粉工場としてはかなり小ぶりです)。

基本的な製粉工程は、「小麦の調質⇒ロール製粉機⇒石臼⇒篩い工程」となります。小麦の調質とは、どこの製粉工場でも行われている重要な工程で、小麦に加水し放置することを言います。時間をかけることで表面の水分がゆっくりと内部に浸透することで、表皮部分がしんなりとして、製粉時の皮離れがよくなります。調質しないと、製粉時に表皮が粉々に飛び散って、小麦粉に混入してしまうからです。

オレゴン州のカマス製粉所(Camas Country Mill)は、石臼による有機小麦の全粒粉に特化しています。ここで製粉される小麦は、すべて近隣のハントン農場から搬入されます。ハントン農場は、2700エーカー(約1100ha)の小麦畑を耕作し、収穫された小麦は、すべてカマス製粉所で製粉されるので、現在消費者の関心が高まりつつある原材料のトレーサビリティについても安心です。ここでは農家、製粉工場、パン屋さんが一体となっています。

ユタ州ローガンにあるセントラル製粉所(Central Milling)は、1867年創業、以来実に150年以上製粉を続けています。ここは小麦粉だけでなく、有機発芽穀物(小麦、エンバク、デュラム小麦、アインコーン、エマー、スペルト小麦)なども販売しているユニークな製粉工場です。最近、自家製粉しているパン屋さんも増えたので、穀物での需要も多いようです。ここでは農家、製粉所、そしてパン屋が密接に連携しながら持続可能な経営体制を築いています。

以上ご紹介した小規模製粉所は、ほんの一部で、まだ他にも独自路線の小規模製粉所は沢山あるようです。アメリカといえば、個人的には「大量生産大量消費」のイメージがあるので、このいったユニークな小規模製粉所の存在は、新鮮で驚きです。同じ製粉工場といっても、土地柄が異なるので、内容も日本とは全然違います。ただ一方で問題がないわけではありません。小規模生産であるため商品価格も相応に高くなりますが、そこを消費者が付加価値として認めてくれるかどうかにかかっています。また耕作面積も限定されるため、天候不順による原料の浮動もある程度はやむを得ず、それが小麦粉の品質に影響することもあります。

しかしいずれにしても、このような事例をみていると、小麦粉はコモディティではないことを実感します。地域と一体となり、独自経営を実践している小規模製粉工場は、参考になり、そして勇気づけられます。我々も「さぬきの夢」という有望なローカル資源を更に有効活用する必要があると痛感しました。