#672 オリバー・エバンス②・・・搬送装置

当時、エバンスのアイデアは斬新で、一般には馴染みのないものばかりだったので、明快に説明されても理解は容易ではありませんでした。工場内には見慣れない「通路」や「連結」が迷路のように走り、そこにあるのは奇妙な機械や装置ばかりでしたが、これらを正しく調整しておけば、全てが自動で動くようになっています。

ただ一見複雑に見える工場も、その原理原則は実は単純です。まず水力を利用して、原料を最上階へ押し上げ、次に自然落下を利用して各階に送ります。また同じフロアー内では、動力機械が合理的に配置され、コンベアによって運搬される仕組みです。各工程で使用される機械類は、立体的に配置されることで融通がきき、また維持管理も容易になっています。このような流れを考えるとエバンスが容易に理解されなかったのも無理はありません。彼は従来の粉屋や製粉大工というより、純粋のプラントエンジニアだったからです。

エバンスの考えを理解するために、彼の製粉所の各工程を実際に辿ってみます。彼は従来の製粉所で使用されていた水車、石臼、その他機械類全てに対し、問題点を洗い出し、夫々に改良を加えます。エバンスの頭の中からは、そういった斬新なアイデアが、次から次と溢れでてきます。そしてその中でも特に重要な技術は、原料を持ち上げる昇降機(elevators)、それを落下させる重力シュート(gravity chutes)、そして水平方向に移動させるコンベア(conveyers)といった 原料を移動させる装置です。

少なくともラメッリ(1588年、#211)の時代以降は、小麦は袋や桶に入れ、巻き上げ機で吊りあげていましたが、この方法だと一時的に水車に大きな負荷がかかり、石臼の粉砕作業そのものに大きな影響がでます。それに対しエバンスの考案したエレベーターは回転ベルトに小さなバケットが沢山ついているので、負荷は小さくしかも一定なので、石臼の粉砕作業に支障を来すことはほとんどありません。

(下図)の29、31は、船から小麦を持ち上げる特殊なエレベーターで、後になって小麦の取扱い方法としての有用性が高く評価されます。バケットがその上を通過する滑車は、可動式の台に設置されていて、それは更に2つの滑車に連結されています。そして下に立っている人が2つの滑車の上を通っているロープを上げ下げすることで、この台を上下させることができるので、船内の小麦が残り少なくなった場合や潮の満ち引きにも対応可能です。ただエバンスは、「製粉大工と粉屋の手引き」の中で、この装置の製作方法を図解付わかりやすく説明していたにもかかわらず、それは暫くの間、製粉産業界の注目を引くことはありませんでした。しかし1843年になってようやく、バッファローのジョセフ・ダート(Joseph Dart)が使い出した途端、それが弾みとなって五大湖周辺の小麦取引が活性化するようになります。

エバンスは重力の性質、つまり「自然落下」を利用しながら巧妙に工場の設計をおこないました。ただ関心のない者にとっては、それはただ機械がガタガタ音を出しながら、エレベーターに乗った小麦や挽き割りが上がったり下がったりしているだけにしか見えません。一般の人にとっては、どうして原材料を何度も持ち上げる必要があるのか、またなぜ従来皆がやってきたような運搬方法ではいけないのかが良く理解できません。そして注意深い取扱いや正確な調整が必要なエバンスの機械装置が、絡んでくると益々訳がわからなくなってきます。しかしエバンスの考えは単に先進的であったに過ぎません。

エレベーター以外にも、エバンスは、水平方向の原料搬送装置を色々考案し、中でも重要なものにスクリュー・コンベアの利用があります。当時、普及していた粉砕方式で挽かれた小麦粉は、熱を持ち、また水分を多く含んでいたため、スクリュー・コンベアでは詰まりやすく、よって不向きでした。そこでエバンスは小麦の搬送にこれを利用し、また併せて搬送中に、送風機を利用して小麦に付着したほこりを吹き飛ばす方法も考案しました。