#675 オリバー・エバンス④・・・ミドリングス

ミドリングス(middlings)という言葉について、少し補足します(アメリカはミドリングス、イギリスはセモリナと言うそうです)。小麦粉は、その大部分はきれいな胚乳部分、つまり小麦粒のでんぷん質が細かく取り分けられた状態のものです。そしてミドリングスというのは、一見小麦粉のように見えますが、それよりもやや大粒で、小麦粉もしくはそれに小さな小麦ふすま片がくっついたものを指します。そしてこれは推測ですが、エバンスは純度や大きさにおいてより小麦粉に近い、細かいミドリングスのことをテール粉と呼んだようです。ミドリングスは大切な胚乳部分を含んでいるにもかかわらず、1等粉(上級粉)のようには売れず、よってどのようなサイズであれ純度であれ、ミドリングスは長い間やっかいな存在でした。

ファン(送風機)は、エリコットがオランダ式送風機(the Dutch fan)と呼んでいたように当時既に一般的に使用されていました。しかしエバンスは製粉におけるファンの応用範囲を飛躍的に高め、その結果を1790年に申請した一連の特許の中に含めました。従来のファンの使用法は回転篩を通過した小麦をよりきれいに純化する方法でしたが、エバンスは更に気流の利用方法を応用発展させ、その方向性は現在のピュリファイアー(純化機)の登場を予感させます。ただ残念ながら、ピュリファイアーの第一歩は、ヨーロッパで始まり、その一連の流れはフランス人のブノア(Benoit)によって記述されています。しかし実を言うとブノアは「製粉大工と粉屋の手引き」をフランス語に翻訳した人物であり、よってエバンスの影響を強く受けていたことは間違いありません。

エバンスが開発した装置類は、暫くすると急速に普及し始め、やがてアメリカ全土に行き渡り、隅々の小さな製粉所でも使用されるようになります。一方、海外における「自動化への移行」は緩やかで、1870~1880年代になりようやく弾みがつきます。右図は、著名な製粉大工であるアンドリュー・グレイ(Andrew Gray)によって設計された19世紀イギリスにおける典型的な小型水車の石臼製粉と篩い分けの作業場です。手際よく設計はされているものの、この製粉所にはエバンスが開発したエレベーターやコンベアもなく、当時のアメリカの製粉所と比べると設備面で見劣りがします。グレイとエバンスとの製粉所に対する考え方の違いは、簡単にいうとアメリカにおいては、イギリスよりも人的労働にずっと高い価値を認めていたからかもしれません。つまり開拓者精神の一つの効用であり、そしてその後のアメリカにおいて台頭する民主主義の前兆を予感させます。

当時、通常の製粉所では、1日1人当たり精々10バレルでしたが、エバンスの設計した製粉所では20バレルの小麦粉を生産することができました。小麦の種類としては、硬質と軟質、1等麦と2等麦、また夾雑物のないもの及びニンニクや雑草が混ざっているものなど6種類がありましたが、エバンスはそれらを全て平均して次のような結果を得ました:

上級粉           ・・・64.33%
テール粉・ミドリングス   ・・・7.33%
末粉            ・・・3.37%
小ふすま・ふすま      ・・・17.57%
夾雑物・ロス        ・・・7.40%

夾雑物が多い理由は、ロットによって不純物を多く含んでいるからで、上記6種類のうち良質2種類だけの場合は2.28%でした。小ふすまには、胚芽、ふすま片、少量の小麦粉などが含まれます。末粉とは、やや粗いミドリングスのことで、上級粉の歩留りは59.5~68.5%の範囲です。エバンスの製粉方法での平均的な上級粉歩留りは64%であり、これはトーマス・エリコットのそれと良く一致します。そしてエバンスの当初の主張通り、従来の製粉方法よりも1ブッシェル当り2~3ポンド上級粉歩留りが向上しました。

つまり従来は60%程度の上級粉歩留りだったのに対し、エバンス方式では3~5%も歩留りが向上したことになります。エバンスは、ミドリングスやテール粉を再度石臼で挽きましたが、それでもテール粉、ミドリングス、末粉併せて10%程度は残ります。これらは胚乳部分が充分に小さくならなかったり、逆にふすま片が小さくなったりして、両者が分離できなくなったもので、2等粉としてしか売れません。ただエバンスの時代の上級粉は、今日の小麦粉と比べると純度はかなり落ちます。エバンス以降の技術革新により、より純度の高い胚乳部の抽出が可能になり、エバンスができなかったテール粉、ミドリングス、末粉などの残り10%からも、更に小麦粉を取り分けることができるようになりました。

ミドリングスの処理方法について、エバンスはこれ以外にも、有効な方法を実践していました。彼は石臼の回転速度を他の製粉屋よりも遅くしました。つまり直径5フィートの石臼の場合、従来は150rpm以上が標準でしたが、彼は100rpm程度で回転させます。また過度の圧力が小麦粉の品質を劣化させると考え、次のように表現しました:「小麦粉の品質を損なうのは、キメの細かさではなくて、石臼で挽くときに加わる過度の圧力である。つまり上手に目立てした切れ味鋭い石臼であれば、強い圧力をかけずに挽くことができ、よって品質を損なわずに小麦粉の粒度を小さくすることができるのだ」。