#677 北海道の小麦圃場見学@長沼研究農場

北海道は、日本の農地面積の約25%を有し、その農業は稲作、畑作及び酪農を中心とした大規模経営が特徴です。ホクレングループレポート2018によると、北海道からは毎日9,760㌧、年間356万㌧もの農畜産物及び加工食品が道外に向けて出荷されています。また小麦について言うと、作付面積は121,600ha(全国の57.3%)、また生産高は60.8万㌧(同67.2%、H29産)と圧倒的な存在感を示しています(#589参照)。このように北海道抜きに日本の食糧事情は語れません。

さて先日、ホクレンの長沼研究農場(夕張郡長沼町)見学の機会を得ました。ここは恵庭研究農場(恵庭市)、バイオ研究センター(夕張郡長沼町)と並ぶ、ホクレンの代表的な研究施設です。ここでは、馬鈴薯、春巻き小麦、玉ねぎ、人参、スイートコーン、かぼちゃ、だいこん、ブロッコリー、キャベツ、アスパラガスなど私たちに食生活に欠かせない蔬菜の品種開発が行われています。

そして私たちが関心のある小麦については、平成11年度に奨励品種に認定された製パン適性に優れた「春よ恋(はるよこい)」が、ここの長沼研究農場で開発されました。国産小麦といえば、麺用の中間質小麦が圧倒的に多い中、「春よ恋」のようなパン用の硬質小麦の存在は貴重です。さて小麦の品種開発といっても、簡単にできるものではありません。まず栽培適正、製粉性、製パン性などを考慮し、有望な品種を交配させます。その後、集団養成、系統選抜、生産力検定をいった順序を経て、決定されるため、開発期間はどんなに早くても13年はかかるといいます。

現在、長沼研究農場では、「春よ恋」の後継品種の開発が大詰めを迎えています。この後継品種の開発目標は、①多収かつ高タンパク含有量であること(多収は生産者にとって重要で、高タンパクであればパンが良く膨らみます)。②優れた障害抵抗性をもっている(赤かび病抵抗性・穂発芽耐性の強化も重要です)。③高品質であること(「春よ恋」以上の製パン適性が求められます)の3条件です。

そして後継品種として有望な「HW8号」は、H30 までの試験結果において、耐倒伏性と穂発芽耐性の改善が認められ、蛋白含有量もやや高いという結果がでています。収量性については、結果に多少ばらつきがみられたものの、総じて遜色ありません。そして製パン適性については、試験箇所によっては体積がやや小さくなる傾向がみられたものの、概ね同等でした。以上の結果を踏まえ、この「HW8号」が「春よ恋」を代替できる品種として有望であると判断し、現在優良品種認定のための試験が継続中です。

ところで小麦は、播種の違いに着目すると、「冬小麦」と「春小麦」の2種類があります。前者は、秋から初冬にかけて種をまき、翌年の初夏に収穫するタイプで「秋まき小麦」ともいいます。一方、「春小麦」は、春に種をまき秋に収穫するタイプで、「春まき小麦」とも言います。北海道の小麦は、「秋まき小麦」が圧倒的に多く、全体の90%を占めます。そして「春まき小麦」は、パン用や中華麺用の強力粉用が中心です。

「春まき小麦」は、「秋まき小麦」に比べ生育期間が短いので収量が低いことに加え、収穫時期が遅いため、雨にあたりやすいのが欠点と言われています。しかし国産のパン用小麦は人気が高いため、赤かび病抵抗性や穂発芽耐性が強化された「HW8号」のような新品種が開発されているわけです。香川県にも香川県農業試験場という立派な研修開発施設がありますが、香川県の100倍の小麦を生産する北海道は、そのスケールメリットを存分に活かし、研究開発が進められています。「春よ恋Ver.2」が市場に登場するのも間近です。

【春よ恋の有望後継品種】

【収穫中のきたほなみ】