#681 「麺の科学(山田昌治著)」①

科学をあなたのポケットに」のキャッチフレーズで有名な、老舗の一般向け自然科学新書ブルーバックスより、「麺の科学」が上梓されました。著者は大手製粉会社で食品の研究開発に携わってこられたバリバリ研究者です。粉の科学、世界中の麺の話、麺の栄養学、麺を美味しく調理する方法など麺関連のトピック満載で、コンパクトでわかりやすくまとめられています。以下、印象に残った点を中心に主観を交えてまとめてみました。

【①小麦が穀物の主役になった理由】
現在、三大穀物といえば、トウモロコシ(2016年の生産量10.6億㌧)、小麦(同7.49億㌧)、米(同7.41億㌧)です。そして小麦が人気のある穀物として、これほど普及したのは、次のような理由によります。
(1)気候条件の厳しい場所でも栽培が可能。つまりほとんど至るところで栽培できる。
(2)小麦特有のグルテンがもつ粘弾性が、食材としての加工適性を飛躍的に高めた。
(3)食味が優れている。

現在のイラン近辺で始まった小麦の栽培は、その後世界各地に広がります。そしてスペイン人によって1529年にはメキシコへ、そしてイギリス人によって1788年にはオーストラリアに伝わりました。オーストラリアは今や世界有数の小麦輸出国ですが、小麦の歴史は、なんと200年少々にしか過ぎません。また日本では、2000年前の弥生時代の遺跡から小麦が見つかっているので、当時既に中国経由で入ってきたようです(中国に伝播したのは3000年前)。

【②グルテン形成に関わる3つの効果】
小麦粉にはたくさんのタンパク質が含まれていますが、特に重要なのが弾性をもつグルテニンと粘性をもつグリアジンで、この2つから小麦粉特有の粘弾性をもつグルテンが形成されます。そしてここでグルテン形成に関わるのが次の3つの効果です。

(1)空間効果
グルテンを形成するには、小麦粉と水と均一にそぼろ状にする「水回し」が不可欠です。これを空間効果といいます。
(2)温度効果
いくら水回しが完璧でも、適切な温度でないと熟成は進みません。これを温度効果といいます。
(3)時間効果
そして完璧な水回しと適温のもとで、熟成させる(時間をかける)ことで更にグルテンの立体網目構造が完璧になります。これを時間効果といいます。

このように分類するとすっきりします。うどんを打つとき、このうちのどの効果が不足しても、十分な生地とはなりません。これら3つの効果を上手く組み合わせることで、角が立った美味しいうどんとなります。また効果をうまく調整することで、うどん生地の熟成をコントロールすることが可能になります。

【③麺は食物繊維と一緒に】
糖質(C:炭水化物)、タンパク質(P)、脂質(F:脂肪)は、ご承知のように三大栄養素であり、このバランスはC(60%)、P(15%)、F(25%)が良いとされています。また「炭水化物=糖質+食物繊維」という関係があります。うどんなどの麺類に含まれる栄養成分の多くは、糖質です。糖質はエネルギーを生みだす重要な栄養素ですが、摂取し過ぎると太り過ぎの原因となります。そこで存在感を発揮するのが食物繊維です。

食物繊維は、以前は「食物のカス」と考えられていましたが、最近では、腸内環境を改善する、「腸活」に不可欠な存在と認知されるようになりました(#625)。また水分を吸収して膨潤する食物繊維は、小腸においてグルコースの吸収を緩やかにする機能があることもわかってきました。その結果、糖質を多く摂取しても、食物繊維を豊富な食品を併せて摂れば、血糖値の上昇を抑えることができす。

昔の料理は、煮たり焼いたりすることが多く(精製度が低い食品)、食物繊維を豊富に摂取していましたが、現在は食品の加工技術が向上し、精製度が高くなり、その結果食物繊維の摂取量が十分ではありません。そこで意識的に食物繊維を豊富に含む食材を併せて摂ることで、血糖値の上昇を抑えた食生活が可能です。小麦ふすまは、最上質の食物繊維のひとつです。つまり小麦粉を全粒粉で代替することで、糖質の摂取を抑える一方、食物繊維を豊富に摂取することができ、その結果、食事を通して血糖値を抑えることができます。