#685 命を縮める糖質制限食~新たなエビデンス~
糖質制限ダイエットという言葉はすっかりお馴染になりましたが、最近はその弊害もだんだんと報告されるようになりました。そして先日、業界紙「製粉振興#602」に「命を縮める糖質制限食(下方浩史 著)」という過激なタイトルの記事が掲載され、興味深く読みました。要点はタイトル通り、「糖質摂取量が減少すると、寿命が縮む」という事実です。以下簡単にまとめてみました。
現在、一般的な糖質制限食、いわゆる「ロカボ」は、炭水化物の摂取量を、1日平均100g(400kcal)程度にまで減らします。平均的な日本人は、1日300gの炭水化物を摂取するので、平均の1/3にまで減らすことになります。ただこれまでの研究で、糖質制限食には、沢山の弊害があることがわかっています。一例を挙げれば、糖が利用されないので、体内でケトン体が大量に産生されて、体臭が強くなる。幸せホルモンであるセロトニンの脳内産生が減少し、情緒不安定になる。食物繊維が不足し、腸内環境が劣化し、免疫異常、糖尿病、動脈硬化などの危険性が増大するなど枚挙にいとまがありません。
そして2018年8月16日、英国の医学雑誌「ランセット公衆衛生誌」に「糖質制限食で死亡リスクが高くなる」事実を明確に示す論文が掲載されました。この研究は「ARICスタディ」といい、アメリカの4州から45~64歳の住民15,428人を抽出し、1987~1989までに第1回目の調査が行われ、炭水化物による摂取エネルギーの割合は、平均で48.9%でした。そして2013年までの約25年間で、6,283人の死亡が確認されました。
その結果、炭水化物の摂取割合が50~55%で最も死亡リスクが低く、それよりも多くても少なくても死亡リスクは高くなりました。下図のエネルギー摂取量のうちの炭水化物の割合が50%のときを1としたときの、死亡リスク曲線です。つまり炭水化物の摂取量が20%と極端に少ないときは、死亡リスクが1.6倍になります。尚、グレー部分は95%信頼区間を示し、多少死亡リスクがリスク曲線よりも外れることがあっても、ほとんどがこのグレーの帯の中に含まれることになります。
このリスク曲線の特徴は、炭水化物の摂取量が50%よりも多くても少なくても死亡リスクが高くなることです。そして重要なことは、摂取量が増えても死亡リスクは緩やかにしか上昇しないのに対し、減少すると急激に上昇することです。つまり糖質制限食は寿命を縮めるということです。この例の場合、50歳の人が炭水化物50~55%の食事を摂ると平均33.1年間生きることができますが、炭水化物が30%の緩やかな糖質制限を行うと、29.1年間となり4年間も短くなります。
このアメリカでのARIC研究に、それ以外の世界各地で行われた7つのケーススタディを加え、合計8つのスタディでは432,179人の追跡研究が行われ40,181人の死亡が確認されました。そして興味深いことに、8つの内2つのスタディでは、「炭水化物の摂取量が多いほど死亡リスクが上がる」という結果が報告されました(これは当然ながら糖質制限食を推進している人々には、支持されます)。しかしこれら8つのスタディの結果は、別に矛盾することはなく、炭水化物摂取割合の違いで捉えると良く理解できます。
つまり摂取割合の平均が40~50%のAグループ(6スタディ)と60%以上のBグループ(2スタディ)に分類すると、Aグループでは炭水化物摂取割合が少ないと死亡リスクが高く、逆にBグループでは摂取割合が多いと死亡リスクが高くなりました。つまり「炭水化物の割合が40%以下となる糖質制限食は、死亡リスクが高くなり、炭水化物は50~55%の割合で摂取するのが理想である」という結論になります。日本人の食事もかつては炭水化物摂取割合が60%を超えていましたが、2017年の国民健康・栄養調査では53.9%にまで低下し、少なくとも炭水化物摂取割合においては良好だと言えます。