#731 古代オリエントにおける麦作⑥・・・エジプトでの製粉と製パン作業
最後になりましたが、エジプト時代の製粉とパン焼きの様子を紹介します(下画像参照)。(図A)では脱穀の終わった麦を保管しておく穀倉が小さく描かれています。穀倉右下の男は、そこから麦を取り出しているところで、その上では係員が記録をつけています。穀倉上の象形文字の説明によると、この男達は穀倉から麦を集める係と、その月一ヶ月間を担当している監督者です。右側の(図B)は、搗臼で麦を搗いているところで、左の男が「下ろせ!」という一方で右の男が「合点!」とお互いが調子を取りながら搗いています。
上段中央の(図C)では、4台のふるいと3台のサドルストーンが使用されています。ここの作業はすべて女性が担当し、左下の女性が麦を皆に配分する補助係です。このサドルストーンは道具としては原始的で、支えなしに地面に平らに置いて使用します。それから1,000年が経過すると、サドルストーンは立体的に進化します。使用者は低い腰掛けに座り、上部には挽く前の麦を入れる箱(ホッパー)を置き、挽いた麦を下のくぼみに溜める仕組みに進化します。ここでは右の搗臼(B)でついた麦をこのふるいを使ってふるい分け、粗いストックをこのサドルストーンで更に挽いていたに違いありません。
次にその下2段が(図D)です。ここでは製粉作業の監督者が、その重要度を示すように中心に大きく描かれています。ここでは10人の女性がサドルストーンを、そして4人の女性がふるいの作業をしていますが、後者が女性であることが特によくわかります。また右端の2人は原料を配ったり、集めたりする補助員でしょう。ふるいの上にある象形文字は、左、右と交互に、そして下へと読んでいきますが、最後の鋸歯状の文字(凹の形)はサドルストーンを表しています(鳥が右を向いているときは、右、左、逆の場合は左、右の順に読む)。このことからサドルストーンで挽いたものを、ふるいにかけていることがわかります。使用されていたふるいは長方形もしくは台形です。次にふるいを通った小麦粉は、棚にある瓶に入っている水もしくは、ビールの醸造工程から得られたイースト菌を含んだ液体と混ぜ合わせます。すぐ上ではサドルストーンで麦を挽き、下では、パンを焼いているので、この順番からすると、彼らがここのサドルストーンで生地を捏ねていたのは間違いないでしょう。
次に(図E)と(図F)。パン焼き用の瓶(かめ)を逆さにして暖めている場面。外側の人は熱さのため片手で顔を覆いながら火を焚いています。また上の碑文によると、左から2番目の女性と右から2番目の男性はともに、一番上の瓶の温度を確かめているようです。
(図G)では4の作業が行われています。左上では、女性二人が瓶の中をかき混ぜていますが、これはきっとパン生地がくっつかないよう油を塗っているのでしょう。その下の段では、女性二人がパン生地を捏ねていて、右隣は、女性二人がパン焼き用の瓶に生地を入れ、その上から瓶をかぶせています。この陶製の瓶は、熱の保持力が強いので、再び直火にかけなくても、余熱だけでパンが焼けます。右上は女性二人が、焼き上がったパンを瓶から取り出しています。左上には一部割れ目があり、不明な文字もありますが、これらの作業は全て碑文で説明されています。
最後に最下段の(図H)。パンが正に財産課の担当者に受け渡されている場面です。左端のこん棒を持った役人が、パン屋の管理人にかがみ込んでいるところです。このパン屋は、(図D)中央で立って労働者に対して威張っていた彼に違いありません。パン屋はもし勘定に間違いがあれば、潔く罰を受けることになりますが、彼の横には「呼び出し人」が注意深く立っていて、彼の弁護をすることになっています。ここで皆の視線は、左から5番目の人に注がれています。彼は「パン焼き」の象徴である一塊のパンを、司祭がひざまずいて見ている目の前で、測定用の箱に入れようとしているところです。また3人の書記官は、それぞれ記録しながら、更にその横では補助員が予備の羊皮紙を用意して待機しています。