#732 健康寿命についての最新研究
業界紙(製粉振興#607)に掲載される下方浩史先生の記事は、興味深く、これまでにも「グルテンフリー・ダイエットの真実(#623)」や「命を縮める糖質制限食~新たなエビデンス(#685)」をご紹介しましたが、今回は「健康寿命についての最新研究」をお届けします。健康寿命とは世界保健機構(WHO)が提唱した健康指標で、簡単に言うと「良好な健康状態を維持していると年数」、もしくは「平均寿命-(寝たきりや車椅子生活など、他の人の支えがないと生活できない期間)」となります。
日本人の中には、「自分は健康的でない」とか「諸外国と比較して寝たきりや要介護の人たちが多い」と思っている人がいますが、実際は日本人の健康状態は先進国の中でも優れていて、OECDのレポートでも「国民の多くが健康的な生活を送り、アルコール消費量は低く、肥満率は最も低い」と高評価されています。また公的財源によって支払われる医療費は、OECD諸国内で3番目に高く、脳卒中後の30日死亡率は、2番目に低く、がんの5年生存率も高いなど、医療体制も高く評価されています。
さて健康寿命の公平な国際比較をするためにGBD(Global Burden of Disease Study)による健康寿命データが使用されます。ご承知のように日本における高齢化は加速度的に進み、2000年以降は65歳以上の高齢者の割合が世界一高い国となっています。よって健康寿命は、多くの日本人にとって重要な関心事です。ここでは理解しやすいように、「不健康な年数 = 平均寿命 ― 健康寿命」と定義しておきます。言い換えると「介護が必要な年数」が不健康な年数とも言えます。以下、簡単にまとめてみました。
【1.日本は平均寿命も健康寿命も延びているが、不健康な年数も延びている】
一般に平均寿命が長いほど健康寿命も長くなります。しかし問題は、健康寿命の延伸は、平均寿命のそれに追いついていかないことです。その結果、意外なことに不健康な年数も延びています。次のグラフは、日本における平均寿命と健康寿命の差、つまり不健康な年数の推移です。1990年当時は、男性が8年、女性が11年弱であったのが、2017年にはそれぞれ9.9年と12.6年に延びているのです。健康寿命が延びていれば一見良好に見えます。しかし実際は平均寿命の伸びに追いつかないために、結果として介護が必要な期間が長くなり、医療費や介護費用の負担が増大し続けるので要注意です。
【2.日本は平均寿命上位国の中では、不健康な年数は短い方】
これは個人的な主観かもしれませんが、日本には寝たきり老人が多いイメージがあるので、不健康な年数は、多いと予想していました。しかし実際は逆です。日本は平均寿命上位国の中では、かなり好位置にあります。次の表は、2016年度の世界銀行データベースでの平均寿命上位20ヶ国のデータです。日本は平均寿命、健康寿命共にトップに位置します。ただ「不健康な年数」に着目すると、一番少ない国は韓国で、日本は第6位となります(黄色部分が日本より優れている国を示します)。
また単に不健康な年数だけを比較するのではなく、不健康な年数を平均寿命で割った相対的な指標で比較すると(一番右端)、日本が3番目となります。つまり日本人の平均寿命は世界のトップクラスであるのに加え、健康寿命も長く、また不健康な年数も先進国の中では、比較的短いことがわかります。下方先生によれば、その理由は、日本人の遺伝的な特性、充実した医療制度、そして食生活などが健康寿命を伸ばしている可能性があるといいます。
ただ再度繰り返しになりますが、平均寿命も健康寿命も伸びているからと言って安心はできません。前者の伸びが後者のそれを上回ることで、それだけ不健康な年数が増え続けているのです。平均寿命と健康寿命が同じになるように頑張りましょう。