#777 パン産業の現状
前回に引き続き、業界紙「製粉振興#613」から「我が国のパン産業の現状と主な課題(阿部 勲 著)」という記事をご紹介します。現在の日本のパン産業がどうなっているか、簡単にまとめてみました。
下記の「パン類生産量及び国民1人当たり生産量」というグラフをみると、現在の日本におけるパン産業の概略がよくわかります。まず第2次世界対戦後は、米不足による代用食としてパンが増加し、1955年頃には年間80万tとなりますが、その後は米の増産により、1960年頃には60万tにまで減少します。しかしそれ以降は、高度成長及び食生活の欧風化などが相まって、パンの消費は順調に伸び、1970年頃には100万t近くまで急伸します。
その後、オイルショックなどにより1971~1972年は、95万tまで減少しますが、その後は再び微増を続け、1981年には121万tとなり、その後は、ほぼ横ばいとなります。ただ直近の2020年には、コロナ禍の巣篭もり需要により128万tを記録します。このように一貫して成長を遂げたパン産業ですが、特に1960~1980年にかけては、その成長は特に著しく、「日本のパン業界は、空前絶後の大発展を遂げ、まさしく”パン産業”という産業分野を認知せしめた時代」と言われています。
さて現在は、小麦粉換算で年間約120万tのパンが生産されていますが、その内訳はというと、➀食パン:60万t、②菓子パン:40万t、③その他パン(フランスパン、ロールパン、調理パン、惣菜パン等):20万tとなります。また出荷額も順調に伸び、1985年:9,000億円(食パン3,600億円、菓子パン4,500億円、調理パン740億円)↗2018年:1兆6,340億円(食パン3,400億円、菓子パン1兆20億円、調理パン2,920億円)と急伸。尚、農産物と加工品との違いはありますが、米の産出額1兆7,426億円(2019年)とほぼ同額になります。ちなみに120万tといえば、国民一人当たり10kg(小麦粉換算)になり、1食100gとするとこれは100食分に相当します。つまり平均すると3日に1度はパン食ということになります。
ところで現在のパン市場は、専門家によると、次のように4つに分類されます。分類方法ひとつをみても、現在のパン産業がどのように形成されているかがわかり、興味深く感じます。
➀量販店市場
製パンメーカー製造したパンをスーパーなどの量販店で販売しているパンです。
②コンビニエンスストア市場
コンビニで販売されているパン。コンビニが一つの市場と捉えられていることに、時代を感じます。
③スクラッチベーカリー市場
スクラッチつまりゼロから始めるということで、粉から仕込んで生地を作り、発酵させて焼き上げるパン屋さんです。全国におよそ12,000店舗あると言われています。
④カフェチェーン市場
1990年代後半から急速に出店が加速されました。スタバ、タリーズ、ドトール、サンマルクなどカフェ店内で、パン類の取扱いが拡大していて、新しい市場として認識されています。この市場も時代を感じます。
最後に、1世帯当たりのパンの購入金額は、近年横ばい状態が続き、年間約3万1,000円(食パン1万円、他のパン2万1,000円)となっています。加工品と農産品との違いはあるにせよ、米の購入額2万4,000円を大きく上回っています。そういえば2012年(H24)は、パンの支出(28,3116円)が初めて米の支出(27,428円)を上回り、当時は大きなニュース(#360)となりました(なんとあれから既に9年が過ぎました)。また世帯主が高齢になるほど、パンの購入金額が多くなる傾向がありますが、これは「パンの食べやすさ」が一因に挙げられています。そして都市部ほど購入金額が多くなる傾向があるのも興味深い事実です。