#795 「新エネルギー時代の夜明け(山地憲治著)」
著者は、RITE(公益財団法人地球環境産業技術研究機構)理事長の山地憲治氏。RITEは地球温暖化問題に対する技術開発及び調査研究を行う研究所です。本著では現代のエネルギー事情を、専門家のお立場から緻密に説明されています。内容は興味深く多岐にわたりますが、当方の力量不足のせいで、十分に咀嚼できたとは言い難く、分かる範囲で興味深かった点をご紹介します。
①エネルギー新時代の到来
「火」の発見により人類のエネルギー時代が始まり、最初の大きな転機は言うまでもなく、18世紀の蒸気機関による産業革命です。このときエネルギーという概念が確立しその科学的基礎が築かれます。そして次の大きな波は、19世紀末のエジソンの発明による電気利用の始まりです。これにより大規模発電所の電力を、分散している小規模需要に効率よく供給することが可能となりました。専門家の視点では、エジソンの歴史的貢献は、「電球の発明」よりもその電球を点灯させるために、中央発電所から電気を送る電力システムを事業化したことです。つまり電力のサプライチェーン全体を事業化し新しいビジネスモデルを築いたことに革命的な意義があるそうです(不明を恥じます)。
現在では、人類が利用する一次エネルギー(石油や石炭などの加工されない状態で供給されるエネルギー)の4割近くは電気に変換されて使用されています。自動車のエンジンである内燃機関は高効率ですが、エネルギー利用に着目すれば、何にでもできる「電気」は汎用性において優れています。産業革命から300年、エジソンから150年を経た現在、エネルギーシステムの姿が一変するという意味で、「エネルギー新時代の夜明け」であると著者は言います。
②再生可能エネルギー(再エネ)の将来
2017年時点で、世界のエネルギー消費の約18%を再エネが担っています。この内7.5%が伝統的バイオマス(薪や動物排泄物など)で、残りの10.5%が水力発電、風力発電、太陽光発電、バイオ燃料などの現代的再エネです。クリーンな再エネが増えるのは良いことですが、問題がないわけではありません。日本の太陽光発電は、FIT(原価+利益)という固定買取制度を採用しているため、コストダウンのインセンティブが機能せず、結果として国際基準よりも割高になっています。よって毎年2兆円を超える国民負担が発生し、これが長期間続くため、総額何十兆円という国民負担が生じます。廃炉が決まった高速増殖炉もんじゅへの投入総額が1兆円なので、その補助金の大きさに驚くばかりです。
③核エネルギーの未来
著者は、「原子力」ではなく将来の核融合反応によるエネルギーも含める意味で「核エネルギー」とよんでいます。日本での核エネルギー利用は2011年3月の福島原発事故以来、激減しましたが、世界的にみれば増加傾向にあります。核エネルギーがゼロリスクでないことは、誰もが承知していますが、カーボンニュートラル実現には魅力的な方法です。よって核エネルギー利用については、各国、各人によって意見が異なります(悩ましい)。
④化石燃料の将来
現在、エネルギー供給の80%は石油などの化石燃料ですが、燃焼による大気汚染やCO2排出により評判は芳しくありません。「石器時代は石が枯渇したために終わったのではない」とはヤマニ氏(サウジアラビアの元石油相)」の言葉だそうですが(なるほど!)、今後技術的なブレークスルーが起こり、石油が枯渇する前にクリーンな代替エネルギーが開発されるかもしれません。
⑤電力システム革命
電力生産(発電)から輸送(送電・変電)→供給(配電)→消費(販売)までの全体を電力システムといいます。そして現在電力システムは大きな構造変化を遂げつつあり、これが電力システム改革だそうです。その一つの具体例は、送配電事業の分離・中立化ですが、実現は簡単ではありません。電力システムのように「規模の経済」の効果が大きい事業では、「自然独占」が生じやすいからです。ただそうは言うものの、素人にはなかなかピンときません。変化を実感できるのは、電力会社以外の会社が営業にこられるようになったことくらいでしょうか(再度の不明を恥じます!)。