#804 ピュリファイアーの発明①・・・小麦の性質

ストック(製粉途中の小麦=中間製品)は、原則としてシフター(網)によって篩い分けられます。しかしふすま片(表皮)は、網目よりも小さくても軽いため、落ちてきません。よって小さなふすま片は、気流によって吹き飛ばすことで、セモリナ(胚乳の塊)と分離します。ふすま片を取り除いてストックを「純化(purify)」する機械のことを純化機つまりピュリファイアー(purifier)といいます。ピュリファイアーの発明により小麦粉の品質は、格段に向上しました。これからピュリファイアーの歴史を簡単に辿りますが、その前に小麦の性質を説明いたします。

小麦は大きく、重量比率で胚乳(85%)、表皮(13%)、胚芽(2%)の3つの部分から構成されています。小麦粒は頭に毛の生えたナッツを小さくしたような形状で、平均すると、長さ6.2mm、幅2.8mm、そして重さ0.03gの小さな粒です。そして脆くて崩れやすい胚乳部分を、カニの甲羅のような表皮が覆い、縦には粒溝(クリーズ)という溝が走り、この溝は中心部分にまで食い込んでいいます(#800)。このように小麦は、胚乳部分をきれいに出すには、困難な構造をしています。小麦を手のひらですくってみると、小麦粒は色んな方向を向いているので、これをうまく加工するのには様々な工夫が必要です。

小麦の中心のでんぷん質は、何層もの繊維質の層に覆われていますが、果皮と呼ばれている外側の3層は、ナッツの外皮に当たる部分で、ここは比較的脆くなっています。それに対し、その内側の種皮にあたる層は、胚乳部分に対してだけでなく、各層同士もしっかりとくっついていて、その内側にはさらに厚くて重いアリューロン細胞があります。ザラザラとした外側の果皮にあたる部分は、脆いため、この部分は製粉するときには壊れやすく、一旦粉々になってしまうと、小麦粉との分別ができなくなります。

ふすま片が小麦粉に混ざってしまうと、色調を損ねたり製パン適性が低下したりするので、できるだけ混ざらないようにすることが重要です。胚芽部分は、本来の種子にあたる部分ですが、ここは粉になりにくい部分です。胚芽は圧力をかけると軟金属のように薄く延ばすことができるので、製粉工程での分離が可能です。この胚芽からはビタミンを豊富に含んだ油を抽出することができますが、小麦粉に混じってしまうと、色調、製パン適性、そして保存性などに良くない影響を及ぼします。栄養豊富な胚乳部分であるでんぷん細胞は、粉砕工程において壊れやすく、過度の圧力をかけると小麦粉の品質低下につながります。過度の圧力や高熱は、禁物です。

小麦は全体が表皮によって被われているため、その処理がとても複雑になっています。クリーズ(粒溝)の底にあたる部分は、小麦の部位でも特に汚れた部位であるため、この部分を上手く取り除かない限り、小麦粉の品質は著しく劣化することになります。クリーズはその構造上、どうしても異物や夾雑物が溜まりやすいのです。つまり胚乳部分をきれいに取り出すには、ピュリファイアーが不可欠なのです。神様は、小麦をなぜこのような複雑な構造にしたのかは不明ですが、小麦にはそれだけの価値があるのです。

小麦は種類が異なれば、その性質も異なり、たとえ同じ品種であっても季節により、また栽培地域によっても異なります。そして製粉工場にやってきた小麦には、小枝、石ころ、針金、泥、他の穀物の種子や胞子、水分の多すぎるもの、病害虫による被害粒、またそれ以外にも思いもかけない異物が数多く混じっていることがあります。ほこりなどの不純物はたとえ0.2%という僅かな量であっても、小麦粉全体の色調を損ねるには充分です。料理も同様ですが、僅かな異物が全体の食味を損ねてしまいます。