#825「さぬきの夢」後継品種試食会
「さぬきの夢」は香川県で開発されるうどん用オリジナル小麦の総称です。初代「さぬきの夢」は2000年に開発された「さぬきの夢2000」(以下、夢Ver.1)、そして現在流通している「さぬきの夢」は、製麺適性が向上した二代目「さぬきの夢」(品種名は「さぬきの夢2009」、以下、夢Ver.2)です。香川県農業試験場で開発されている小麦品種には、順番に「香育◯◯号」という系統名がつけられていますが、夢Ver.1は香育7号、夢Ver.2は香育21号となります(#286)。
夢Ver.1 は確かに「もっちり感」はあるし「旨み」も申し分ないのですが、ただ一つだけ欠点がありました。それはタンパク質が少ないために生地の形成において「つなぎ力」が若干不足し、その結果うどんが切れやすくなることでした。そのため限られたグルテン量を最大限に生かす必要があり、それには加水量をキチンと量り、熟成時間を正確に守り、また何より丁寧につくる必要がありました。しかしうどん屋さんによっては猫の手も借りたいほど忙しいところもあって、わかっているけど、なかなかその製法手順が守れないといった問題点がありました。
そこで作業適性に優れた小麦を開発してくださいという声に応えて、夢Ver.1の後継品種として2009年に夢Ver.2 が登場しました。ただ初代に比べて製麺適性が向上した夢Ver.2ですが、業界標準となっているASWと比較すると扱いやすさの点ではまだ一歩及ばないのも事実です。さて夢Ver.2 が登場して、10年余りが過ぎ、そろそろ「次世代さぬきの夢」(以下、夢Ver.3)の登場を待ち焦がれる声が多くなってきました。そしてようやく実用化への目処がたち、この度その試食会へいってまいりました。そこで簡単に夢Ver.3についての試食レポートをお届けします。
今回は、テストミルいわゆる試験機により製粉した小麦粉を使用しました。テストミルとは小型のオールインワン型製粉機で、工場製粉による小麦粉と全く同じというわけではありませんが、おおよその傾向は知ることができます。また夢Ver.3は公表前ですので、その出自等は省略させていただきます。画像は左が夢Ver.3 、右が夢Ver.2です。夢Ver.3 の方が、少し淡黄色が強いように見えます。またうどんの「つなぎ力」の源であるタンパク値が改善されているため、コシは良好で、その分作業適性も向上しています。食味に関しては良好ですが、これは各自により好みが分かれるかもしれません。夢Ver. 3 は今秋より本格栽培が始まり、来年は工場製粉による本格的な製粉が可能となります。
ところで前回の夢Ver.2選定時には、香育20号と香育21号の2品種が最終候補として残りました。そして開発元である香川県農業試験場では、有望系統2種の甲乙はつけがたく、決めかねるということで、香川県農業生産流通課、小麦生産農家、製粉工場、うどん店など関連しているみんなで選定しましょうということになりました。そしてその中で特に注目を集めたのが、「1000人無料試食アンケート大会」でした。これは2009年10月1日にうどん店で、両方を一般消費者1,000人に試食してもらうという企画でした。実際はなんと1,093名もの人たちが参加して、その結果香育21号が夢Ver.2 として選定されました(#206)。
香育20号は、きれいな小麦色の淡黄色が食欲をそそる、コシの強さと歯切れの良さを兼ね備えた品種でした。一方、香育21号は、どちらかといえば夢Ver.1によく似た粘り強さと食感が特長で、食味にも深い味わいがありました。つまり香育20号はどちらかといえばASW 寄り、香育21号は夢Ver.1の後継品種といった感じでした。当時は独自性が評価され、香育21号が選定されましたが、もし香育20号が後継品種となっていれば、今頃のどのような評価を得ていたのかとても興味深いところです。