#831「さぬきの夢」後継品種選定
うどん県は、10月6日、うどん用県産小麦「さぬきの夢2009」の後継品種を選定したと発表。県の説明によると「後継品種は、従来品種よりもタンパク質の含有量が多く、製麺時の生地の伸びにくさを改善。食味良好。早ければ2025年産から本格栽培に入る予定。またうどん以外の食品にも活用の幅を広げる考え」とのことです。新品種選定の目的は「従来品種よりもタンパク含有量が多く、よって作業適性の向上」です。
「さぬきの夢」とは香川県で開発されるうどん用オリジナル小麦の総称です。香川県農業試験場で開発されている小麦品種には、順番に「香育◯◯号」という系統名がつけられています。また「香育(かいく)」とは香川県農業試験場で育種されたという意味です。少しややこしいですが、初代「さぬきの夢」は2000年に開発された「さぬきの夢2000」(以下、夢Ver.1)でこれは香育7号。また現在流通している「さぬきの夢」は、製麺適性が向上した2代目「さぬきの夢」(品種名は「さぬきの夢2009」、香育21号)です(#286)。そして新品種である夢Ver.3は、グルテニン含有量が多く粒張りも良い「香育33号」となりました。品種名は未定ですが、これまでのルールに従うと「さぬきの夢20XX」(XXは登録年次)となるはずです。
うどん作りで小麦粉に求められる重要なポイントは、「グルテン含有量とグルテンの性質」です。小麦には様々なタンパク質が含まれていますが、特に重要なタンパク質がグリアジンとグルテニンです。グリアジンは「粘性」を、そしてグルテニンは「弾性」を有します。そして小麦粉を塩水で捏ねることで、この両者は「粘弾性」を有するグルテンを形成します。ゆでる前のうどんが切れずに繋がっていることができるのは、このグルテンがうどん生地中に立体網目構造を形成しているからです。
つまりグルテン量が多いほど、ゆでる前のうどんの「つなぎ力」が大きくなります。グルテンは多ければ多いほど良いという訳ではありませんが、快適な作業性を担保するためには、一定量が必要です。また一口にグルテンといっても、その性質は小麦毎に異なります。たとえば右は、夢Ver.1 と夢Ver.2 とのグルテンを吊るして比較した画像です。夢Ver.1のグルテンは時間が経過すると大きく垂れてしまうので、柔らかいということがわかります。
よってグルテン含有量が同じであっても、グルテンそのものが柔らかいとうどん生地もだれやすくなります。夢Ver.1 は確かに「もっちり感」はあるし「旨み」も申し分なかったのですが、タンパク含有量そのものが少ないのに加え、グルテンも柔らかいために「つなぎ力」が不足し、その結果うどんが切れやすいという欠点がありました。そしてその欠点を補うために夢Ver.2 が2009年に登場しました。しかし改良された夢Ver.2 ですが、作業適性においては業界標準であるASWにはいま一歩及ばないというのが世間の評価でした。
繰り返しますが、夢Ver.3の開発目的は「従来品種よりもタンパク含有量が多く、よって作業適性の向上」です。そして「さぬきの夢後継品種試食会(#825)」において実際に夢Ver.3 を打ったうどん屋さんの感想は、「作業適性はASWと比較して遜色ない」というものでした。今後、夢Ver.3の作付が本格化すれば、うどん店の「さぬきの夢」に対する評価もさらに向上し、うどん県の小麦によるさぬきうどんも徐々に増えてくるはずです。夢Ver.3 をどうかご期待ください。