#843 国産小麦の動向
現在、国産小麦の生産量は100万t程度(需要全体の20%弱)、そして残りの80%は米国、カナダ、豪州からの輸入に頼っています。また小麦の国際価格は、ウクライナ危機の影響を受け歴史的高値となりました。さて前回と同じく製粉振興#621(2022年11月号)からの掲載記事の紹介です。タイトルは「国際情勢も踏まえた小麦の国産化拡大に関する一考察(吉田行郷著)」、これまでの国産小麦の動向及び現在の状況がコンパクトにまとめられています。以下、独断でまとめ、その後に個人的感想を述べます。
米が潤沢にある現在では考えにくいことですが、戦後の1960年頃においては、まだ米の自給ができていなかったこともあり、その代替穀物として小麦180万t、大麦230万tの合計410万tもの麦類が生産されていました。現在では小麦生産の60%以上を占める最大産地の北海道も当時は、全国60万haの1.5万haにしか過ぎず、当時日本一の産地は群馬県(約10万t)でした。
戦後は、食の欧米化の進展などにより、パンや中華麺が普及・拡大し、小麦に対する需要が拡大しましたが、国産小麦はこうした変化に対応できませんでした。この主たる理由は、「麦類は選択的縮小作物として位置づけられたこと、そのため米と比較して大幅に政策価格が抑制され麦作の有利性が低下し、技術革新の進展もみられなかった」だったことから、その後日本における麦生産は長らく低迷することになります。結果、1975年頃には、小麦、大麦共にその生産量は、1960年代の1/10程度の20万tにまで縮小しました。
しかし1970年代になると米の生産調整強化により、一転、小麦が転作作物の主軸として位置づけられます。そして2000年度には「麦の民間流通制度」が導入され、国産麦の流通制度の見直しが行われました。需要のある品種の価格は上昇し、需要のない品種は価格が下落するという競争原理が導入された結果、実需者のニーズが生産者に伝わるようになり、これが小麦の品質向上の大きな要因となりました。
また以前は「国産小麦=和風麺用小麦」というイメージが定着していましたが、市場が求める商品を提供するマーケットインという考えが小麦の世界にも導入されるようになりました。つまり従来、国産の強力系小麦は、反収の低さ、作りづらさ、収穫期が遅く梅雨とぶつかりやすいことによる穂発芽リスクなどの理由で、生産者からは敬遠されてきましたが、品種改良により反収の多いまた穂発芽耐性の高い品種も次々と開発され、生産されるようになりました。北海道の「春よ恋」、「ゆめちから」、佐賀県の「はる風ふわり」、大分県の「はるみずき」は、すべて強力小麦です。
民間流通制度が導入され競争原理が働いた結果、パン用、中華麺用に使用可能な強力系品種の割合はこの10年間で3倍に増加し、全検査数量の23%にまで拡大しています(画像参照)。かつてほとんど小麦生産のなかった北海道では現在、国産小麦全体の7割弱、これに九州北部4県、北関東4県を加えると81%、更に東海3県を加えると81%に達します。今後国産小麦の生産面積拡大は、2030年までに+9%(2021年比)を目指します。
【個人的な感想】
1960年代までは北海道において小麦がほとんど生産されていなかった事実には少し驚きました。近年、強力系小麦が多く開発されているのはマーケットインが重視されている結果で、この動きはこれから更に加速されることを期待します。ただ懸念材料もあります。ここ数年は天候に恵まれ小麦生産は豊作が続きましたが、今後も豊作が続くという保証はありません。日本の気候は、高温多湿の温帯モンスーン気候であるため、本来は小麦生産の適地ではりません。よっていつ凶作となっても不思議ではなく、今後さらなる技術革新による高品質品種の開発、そして凶作に備えての年間備蓄体制の確立を期待します。