#844 国産強力粉3種比較

「国産小麦=和風麺用小麦」というイメージが定着していた国産小麦も、市場が求める商品を提供するマーケットインという考えが導入されて以来、様々な高品質小麦が生産されるようになりました(#843)。その結果、パン用、中華麺用に使用可能な強力系品種の割合はこの10年間で3倍に増加し、全検査数量の23%にまで拡大しています。そこで今回は、パン用の強力系品種3種をご紹介します。

はるみずき
「はるみずき」は西日本の主要なパン用小麦品種「せときらら」より子実のタンパク質含有率が高く、小麦粉の生地物性が強く、製パン性に優れる品種です。「せときらら」より早生で、稈長が短いため倒伏に強く、西日本向けのパン用小麦として普及が期待されています。また「はるみずき」は、「せときらら」より成熟期が2日早い早生品種で、稈長は短く倒伏に強い品種です(農研機構)。

上記に「成熟期が2日早い」という表現がありますが、素人考えでは「2日早く播種すれば同じではないか?」とつい思いたいところですが、当然そんなはずはありません。そこで質問すると次のような丁寧なお答えをいただきました。”出穂や成熟を含めた作物の生育には、「積算気温」といって生育期間中の気温の合計が影響します。温暖地の麦作では秋から冬に播種し、5月から6月に収穫しますが、播種後の麦の生育期間は冬季で低温であるため、暖かい冬の日があると数日の差は一気に解消されてしまいます。したがって通常は1か月早く播種したとしても収穫時期が2週間以上早まるというようなことはほぼありません。また、麦の収穫時期はしばしば梅雨入りに差しかかります。収穫時期に雨にあたると、「穂発芽(低アミロ)」や品質低下のリスクが高まるため、降雨を避けるべく1日でも早く収穫できることが求められます。このため、出穂期や成熟期は重要な特性で、早く収穫できることは麦を栽培する上で重要になります。

なるほど解りやすいご尤もな説明です。温帯モンスーン気候の日本では、6月になるといつ降雨があっても不思議ではありません。そこで僅か1日でも成熟期が早いというのは、大きなメリットです。高タンパクの小麦はパン以外の醤油づくりにも好適です。そして醤油づくりが盛んな大分県では、このはるみずきを奨励品種に指定し、令和4年には3,404tが収穫されています。また奈良県では令和3年に奨励品種に指定され、うどん県でも「さぬきの夢」と並行して令和5年より生産が始まりました(令和4年は試験栽培)。

はる風ふわり
農研機構が育成したパン用小麦品種「はる風ふわり」は2022年6月に品種登録されました。この品種は西日本地域で栽培されている主要なパン用小麦品種「ミナミノカオリ」より穂発芽耐性が優れ、収穫物の品質低下のリスクが下がるとともに、製パン性が高品質の輸入小麦並みに優れています。佐賀県では令和4年に4,661tが収穫されました。

③春よ恋
「春よ恋」は、ホクレンが平成9年(1997年)に品種登録を申請した製パン適性に優れた小麦品種です。今や国産パン用小麦の代名詞と言われるほど高い人気および認知度の品種で、令和4年には北海道で45,573tが収穫されました。

【4種の製パンテスト】
ここでは簡単にHB(ホームベーカリー)を使用し、現在品質では世界最高と言われているカナダの1CW(No.1 Canada Western、)と上記3種を比較してみました。もちろん4種とも製粉時期、製粉場所が異なるのに加え、気温、HBの特性なども影響するため、厳密な比較ではなくあくまでも参考とお考えください。

画像からは分かりづらいですが、膨らみについては、1CW > はる風ふわり ≒ はるみずき > 春よ恋 の順番となりました。1CWが良く膨れるのは当然ですが、「はる風ふわり」や「はるみずき」もほぼ同程度に膨れたのは意外でした。また「はる風ふわり」と「はるみずき」は、アミロ値が高いせいかどちらも粘りのあるもっちりとした食感でした。もしこの品質が維持できるなら国産パン用小麦として十分に通用すると感じました。