#877 さぬきの夢Ver.3(香育33号)の工場製粉始まる
香川県は、2022年10月6日(昨年のちょうど今頃です)、讃岐うどん専用小麦「さぬきの夢2009」の後継品種に香育33号を選定したと発表しました(#831)。ご承知のように「さぬきの夢」は、香川県で開発されるうどん用オリジナル小麦の総称です。香川県農業試験場で開発される小麦品種は、開発された順番に「香育◯◯号」という系統名がつけられています。また「香育(かいく)」とは香川県農業試験場で育種されたという意味です。
初代「さぬきの夢」は2000年に開発された「さぬきの夢2000」(これは香育7号)。また現在流通している「さぬきの夢」は、製麺適性が向上した2代目「さぬきの夢」(品種名は「さぬきの夢2009」、香育21号)です(#286)。そして「さぬきの夢Ver.3」は、グルテニン含有量が多く粒張りも良い「香育33号」となりました。品種名は未定ですが、これまでのルールに従うと「さぬきの夢20XX」(XXは登録年次)となるはずです。
さて昨年はごく僅かの収量のため、テストミルでの製粉しかできませんでしたが、今年は25㌧収穫されたので、商業製粉工場での本格的な「工場製粉」が可能となりました。テストミルとは原料小麦を試験(テスト)するための小型の製粉機(ミル)のことで、数キロ単位での製粉が可能です。一方、工場製粉では少なくとも数十㌧単位の小麦が必要で、その理由については、#185【10kgの小麦が製粉できない理由】をご覧ください。蛇足ですが、モノが製造される場所、つまり製造工場のことをミル(mill)、そして製粉所も同じミルですが、これは偶然ではありません(生産活動における組織化は、製粉産業において初めて確立され、製粉産業が他の生産活動を牽引してきました)。
県の説明によると、「さぬきの夢Ver.3」のウリは、「従来品種よりもタンパク質の含有量が多く、製麺時の生地の伸びにくさを改善」、つまり製麺時における作業適性の向上です。具体的には、従来の「さぬきの夢」は、グルテンが低いために「うどんが切れやすい」といった欠点がありましたが、Ver.3ではこの点が大きく改善されました(#831)。実際、今回工場製粉を行ったホーコク製粉㈱の尭天社長も「粒が大きいので挽砕しやすい。でんぷん質ではなくタンパク質が多いと手触りはさらっとする」とコメントされています。
ここで少し補足しておきます。「粒が大きい」ことは胚乳部分が多いことを意味し、良質の小麦粉の歩留まりが高いことが予想されます。また小麦粉にはタンパク質の多い順に、強力粉>中力粉>薄力粉と分類されています。どれも見た目は白いので(実際は淡い淡黄色ですが)、どれも同じに見えますが、触ってみると強力粉はサラサラなのに対し、薄力粉はキメが細かく指にまとわりつくように感じます。この理由は、強力粉は硬質小麦という硬い小麦を製粉した結果、粒度の大きな粒になるのに対し、薄力粉は柔らかい軟質小麦を製粉し、粒度の細かい粒になるためです。よって尭天社長の「サラサラとする」という表現には、「この小麦は高タンパクなので作業適性が良いだろう」という意味が込められています。
今後は、「さぬきの夢2009」から「さぬきの夢Ver.3(香育33号)」へと順次切り替わりますが、予定としてはR6(25㌧)、R7(100ha≒300~350㌧)、R8(900ha≒2,700~3,150㌧)、そしてR9には全面切り替えとなります。 香川県農政水産部の尾崎英司部長曰く、「さぬきの夢の後継品種がいよいよスタートラインに立ったと感じています。今後、評価や試作を通して早期の実用化に向けて取り組んでいきたいです」。タンパク質がアップし作業適性が向上した「さぬきの夢Ver.3」は、さぬきうどんだけでなく、手延素麺などの和風乾麺用途などの需要も見込まれています。どうかご期待ください。