#884 「『食』が動かした人類250万年史(新谷隆史一著)」・・・①

「食」の歴史がテーマなので最後まで興味深く読ませていただきました。途中、世界史なのか食物史なのかわからないくらい歴史についての詳細な記述が続きます。しかし飽食の時代である現代と異なり、昔は「食」が生活の中心であり、「食」が歴史を動かしていたのも自然な流れです。例によって気になった点を独断で備忘録としてまとめてみました。

【①人間の脳は肉食で大きくなった】
チンパンジーの脳の大きさは400cc。一方私たちの祖先は、サヘラントロプス・チャデンシス(400cc)⇒アウストラロピテクス(500cc)⇒ホモ・ハビリス(600~800cc)⇒ホモ・エレクトス(950~1100cc)⇒ホモ・サピエンス(1400cc)と順調に大きくなりました。脳が大きくなるためには、その材料となるタンパク質や脂質を大量に摂取する必要があります。肉はタンパク質の固まりであると同時に脂質も多く含まれるので脳を大きくするには格好の食料でした。

【②雑草の能力】
雑草の種子には、同じ条件でも発芽のタイミングをずらす特長があります。もし一斉に発芽すると、草刈りによって全滅する可能性があるからです。雑草の種子は長期にわたり断続的に発芽します。これが草刈りをしてもすぐに雑草が生えてくる理由です。

【③雑草の栽培化】
有益な雑草を栽培化するに際し発芽のタイミングがずれるという性質は不都合です。そこで「人為選択」によってムギ、イネ、トウモロコシなどの種子は、「種子ごとに発芽のタイミングがずれる」という性質はなくなりました。また人為選択により、種子が熟しても落ちない「非脱粒性」を獲得します。一般に、植物が子孫を残すためには種子を土壌にばらまく必要があります。一方、種子が地上に落ちてしまうと人が食べ物として収穫するために、一粒ずつ集める必要がありますが、これは大変な手間です。よってムギやコメは、種子が落ちずに穂にとどまったままの品種が人為選択されました。

【感想】
ヒトは、脳が大きくなったおかげで知性を獲得することができましたが、なぜ脳は大きくなったのでしょう?新谷先生は、「脳は大量のエネルギーを消費するので、肉食が格好の食料であった」とさらっと表現していますが、ストーク先生は、次のような説明をしています(#780)。

食生活の違いは、ヒトの体型にも影響を及ぼします。猿においては顎が前方に大きくせり出していますが、これは主食であった硬い繊維質たっぷりの植物を、大量にまた長時間噛むことができるように、顎やその筋肉が、順応したためです。この顎の構造をバランス良く保つために、猿の頭蓋骨は上方または前方ではなく、むしろ後方に大きく突き出ています。そして頭蓋骨は脊柱(背骨)の上に乗っかっていますが、その結果、直立姿勢を保つことが困難となっています。

肉の成分は主にたんぱく質と脂肪ですが、たとえ生肉であっても、硬い繊維質に比べるとずっと噛みやすい食材です。それ故、自然淘汰を経て、進化しているヒトの顎は後退を始め、顎の筋肉は小さくなり、最終的に頭蓋骨の中には自由な空間ができました。よって頭蓋骨のバランスは変わり、上下に高くなり、そして前方部分が大きくなりました。この変化により脳の前方部分が発達し、もっと知的な処理が可能になったわけです、っと。

種子が熟しても落ちない性質を「非脱粒性」といいますが、これを「栽培型」ということがあります。逆に熟すると落ちる性質は「脱粒性」もしくは「野生型」です。「種」の存続のためには、熟するとすぐに落ちる方が断然有利ですが、逆に収穫目的では落ちると面倒で仕方ありません。小麦が熟したら小麦粒がすべて落下すると想像してみてください。コンバインで刈り取っても何の意味もありません。