#903 科学でわかるパンのなぜ?(梶原慶春・木村万紀子共著)②
#901に引き続き、「Q&Aで理解するパンづくりのコツと技術」から、第7章テストベーキングの中から興味使いテストベーキング事例をいくつか紹介します。興味ある方は、本書も是非ご一読ください。
【➄水の硬度】
「新しい製パン基礎知識(竹谷光司著)」をみると、硬度は水中に含まれるカルシウム及びマグネシウムの濃度のことで、製パンには100mg/ℓ程度が適し、硬水を使用するとアミロ最高粘度が高くなるとあります(つまり粘りアップ)。本書のテスト(まるパン)では、A(硬度0mg/ℓ)、B(同50ml/ℓ)、C(300ml/ℓ)、D(400ml/ℓ)の4種を使用したところ、Bが良好との結果になりました。Aはグルテンの繋がりが弱く、生地がべたついたのに対し、C、Dはグルテンが引き締まり生地が硬くなる傾向です。よって食パンには軟水が、またフランスパンのようなハード系には、硬水が好適のようです。
【⑥塩の配合量】
ここではA(塩0%)、B(塩1%)、C(塩2%)、D(塩4%)の4種を使用したところ、Cが最も良い結果となりました。塩にはグルテンを強くする働きがあります。よって塩を含まないAは、グルテン不足で、アルコール発酵過剰となり、その結果生地が軟化してだれてしまいます。また適正量を超えたDは生地の弾力が過度に強くなります。また塩によりアルコール発酵が抑制された結果、膨らみが悪くなり、また生地中に糖類が残っているため焼色も濃くなります。手打ちうどんの塩の配合量が、4~6%であることを考えると、食パンの場合はその約半分となります。
【⑦砂糖の配合量】
ここではA(グラニュー糖0%)、B(同5%)、C(同10%)、D(同20%)の4種を使用したところ、Bが最も良い結果となりました。糖はイースト菌の食事となります。よって糖が全く含まれないAは、ボリュームが小さく、だれて扁平となり、クラムの気泡は詰まって、歯切れは良くありません。Bはよく膨らみクラストの色づきクラムの気泡も良好。Dは扁平で火通りが悪く、表面にシワが寄っています。クラムの気泡は詰まって歯切れが悪いが甘みは強い。この理由としては、生地中の浸透圧が高くなり過ぎた結果、イーストの水分が奪われて発酵力が弱くなったと考えられます。
【⑧甘味料の種類】
ここではA(グラニュー糖)、B(上白糖)、C(きび砂糖)、D(黒砂糖)、E(はちみつ)の5種を使用したところ、Cが最も良い結果となりました。甘味料にはそれぞれ特徴がありますが、B~Eにおいては、グラニュー糖よりも転化糖が多いというと特徴があります。転化糖は、吸湿性や保水性があることから、生地がべとつき、扁平に焼き上がり、歯切れが悪くなったと考えられます。
【⑨油脂の種類】
ここではA(バター)、B(ショートニング)、C(サラダ油)の3種を使用したところ、Aが最も良い結果となりました。Aはクラスト、クラムともに良好の焼き上がりで、しっとりとして軟らかく、バター特有の風味があります。Bもクラスト、クラムともに良好。ただ歯切れがよく、あっさりとして、味には特徴がない。Cは膨張が早く終わり、ボリュームが小さく、扁平。焼色は薄く、歯切れが悪く、油っぽさがある。
【⑩バターの配合量】
ここではA(バター0%)、B(同5%)、C(同10%)、D(同20%)の4種を使用したところ、Bが最も良い結果となりました。バター配合の目的は、バター特有の風味を与えることです。バターを加えると膨らみがましてソフトになりますが、配合量が5%を大きく超えると、生地がだれて膨らみが悪くなり、食感が損なわれます。また焼色も濃くなる傾向があります。
【結論】
現在、弊社で使用しているHBのソフト食パンのレシピは、【強力粉250g、バター15g(6%)、砂糖 17g(6.8%)、スキムミルク6g(2.4%)、塩5g(2%)、水180cc、ドライイースト2.8g(1.12%)】(%は強力粉に対する重量%)となっているので、このテストベーキングの結果にほぼ沿ったものとなっています。。当然ですが、原材料には適正量があり、過不足無く調整することが重要です。
食パンの加水率は、72%(=180÷250)とうどんと比較してかなり高くなっています。うどんの加水率は、45~50%(=塩水÷小麦粉)が一般的なので、うどんの「水回し」はそれだけ重要であるとも言えます。「最初が肝心」といいますが、うどんも正にその通りで、水回しが完璧なら、上手くいったも同然です。