#912アミログラフ・・・でんぷんの糊化特性②

小麦でんぷん特有の糊化現象を確認しましたが、ここで糊化現象における粘度曲線に登場した用語を復習し、気になった点をまとめました。
糊化開始温度・・・小麦粉と水との混合液を撹拌しながら毎分1.5℃で上昇させるとき、糊化が始まる温度、すなわちでんぷん粒が膨張を始める温度です。
最大粘度  ・・・粘度が最大、つまり糊化が最大になった時点です。これからでんぷん粒の崩壊が始まるので、粘度は下がり始めます。ピーク粘度とも言います。
最大粘度温度・・・最大粘度を達成したときの温度です。
ブレークダウン粘度・・・94.5℃を維持したまま撹拌を続けると、でんぷん粒が崩壊を始め、崩壊が終了した時点の粘度(加熱時の最低粘度)。
ブレークダウン ・・・ 最大粘度とブレークダウン粘度との差。

小麦でんぷんの糊化現象をさらに詳しくみてみると、55℃辺りから糊化が始まり(糊化開始温度)、60℃を超えると粘度が上昇します。70℃辺りではでんぷんの60~65%が、75℃では約80%が糊化し、85℃を超えると全てのてんぷんが膨潤し粘度が最高になります。この糊化現象というのは、結局のところうどんをゆでているときに、うどんの中のでんぷんの変化と同じです。沸騰しているお湯の中にうどんを投入すると、表面部分から徐々に糊化が始まり、最終的にりα化され、うどんがゆであがった状態となります。ただし表面部分が完全に糊化が完了しても、中心部分はまだ糊化が進行中なので少し硬く、この水分格差もしくは硬さの違いをうどんのコシと考えることもできます。

この糊化開始温度は、同じ品種間でも異なります。例えば同じASWでも52.6℃とか57.5℃などかなり開きがあります。普通に考えると前者の方が早く糊化が始まるので、それだけα化(ゆであがり)も早く完了すると考えるのが自然です。糊化に要するエネルギーを「糊化エンタルピー」といいますが、糊化開始温度が低いほど、糊化エンタルピーが小さくなります。よって糊化開始温度が低いと早くゆであがると考えるのが自然です。

また最大粘度温度についても82.0℃とか86.7℃などバラツキがあります。この場合も前者の方が早くα化が完了するので、早くゆであがると考えるのが自然です。つまり同じ品種の小麦であっても、粘度曲線は微妙に異なり、その結果ゆで時間にも影響を与えるのは仕方ありません。小麦は農作物なので、圃場毎に品質が微妙に異なるのは仕方ありません(画像参照)。

小麦でんぷんには、アミロースとアミロペクチンの2種類があり、前者は、重合度が100~1,500、鎖長が50~500であるのに対し、後者は重合度が50,000~500,000、平均鎖長が20~25となっています(画像参照)。つまり簡単に言うとアミロースは細長くて小さなでんぷんですが、アミロペクチンは大きなかたまりのでんぷんといったイメージです。そしてアミロース含量が2%以下をモチ性小麦、10~18%を低アミロース小麦、35~40%を高めのアミロース小麦、そして70%以上を高アミロース小麦とよんでいます。国産小麦には、低アミロース小麦が多く、最高粘度が高い銘柄が多くあります。

早く膨潤して、よく崩壊するものを「軟質でんぷん」、またその反対を「硬質でんぷん」といいます。ゆでめんでは食感への影響から軟質でんぷんが好まれます。アミロース含量が低い小麦(低アミロース)は、軟質でんぷんの性質を有すると言われています。ラーメンやそうめんと異なりうどんは太いのでゆで時間がかかります。よってゆで時間は重要ですが、これには糊化開始温度や最大粘度温度が関係していると考えられます。

(参考:「小麦粉利用ハンドブック(長尾精一著)」、「小麦粉製品の知識(柴田茂久著)」)。