#913 うどん用小麦粉についての質問・・・小麦と製粉工程

あるユーザから次のような質問をいただきました:「さぬきうどんをおいしくいただくために次の3つのポイントについて説明してください:➀小麦粉の種類、②製粉工程、③小麦粉のブレンド」。以下これらの質問について、個人的な主観も込めてお答えいたします。

【➀うどん用小麦粉】
現在、日本では小麦総需要の20%弱を国内生産し、残りの80%余りを米国、カナダ、オーストラリアから輸入しています。このうちうどん用として最も多く使用されている小麦は、オーストラリアのASW (Australian Standard White)です。そしてうどん用国産小麦としては北海道の「きたほなみ」を始め、日本各地で生産され、香川県では「さぬきの夢」が年間約8,500t生産されています。

「さぬきの夢」は、香川県で開発されたうどん用小麦の総称です。その昔、香川県では香川県産小麦がうどん用に使用されていました(輸入小麦がなかったので当然です!)。しかし1970年(S45)の大不作による生産意欲の減退、および他の生鮮野菜など高反収品目への転換が進み、1997(H9)には全盛期の97%減となる475haまで減少します。一方、1974年(S49)には豪州産小麦ASWの輸入が始まり、以後讃岐うどんの原料小麦はこのASWが主流となります。

しかしながら「さすがに讃岐うどんの原料がすべて豪州産という状況はまずいではないか」とか「香川県産小麦で讃岐うどんを作りたい!」という声があがり、讃岐うどん用の香川県産小麦の開発がスタートします。その結果、2000年(H12)には初代「さぬきの夢」である「さぬきの夢2000」が、そして2009年には2代目「さぬきの夢」である「さぬきの夢2009」が開発されました。2009は2000の特長を引き継ぐとともに、より強いコシと、収量性が高い品種であることが特長です。そして現在は、3代目「さぬきの夢」(品種名はさぬきの夢2023)へと移行中で、R9年には全量切り替わる予定です。

弊社では現在、ASWと「さぬきの夢」の2種類をうどん用小麦粉として製粉しています。両者の特徴を簡単に言うと、ASWは作業性、食味、食感、色調全てにおいて良好なオールマイティーな銘柄であるのに対し、「さぬきの夢」はグルテンが少し軟らかいために作業に丁寧さが求められますが、その深い味わいはASWに勝ります。実際、業務用ではASW、個人用では「さぬきの夢」に人気がありますが、その辺りが理由であると思います。

【②製粉工程のポイント】
現代の小麦製粉は、「段階式製粉方法」を採用しています。これは小麦を一度に小さくするのではなく、「段階的」に少しずつ小さくする方法です。具体的には小麦の粒を大きく割り、ふるいにかけ、粗い部分を挽いて再びふるい分ける操作を繰り返します。こうすることでふすま片(表皮)の小麦粉への混入を最小限に抑えることが可能です。小麦の表皮は、強靭で剥がれにくい食物繊維であるのに対し、内部の胚乳部分は、もろく壊れやすい構造になっています。そのため、いきなり潰そうとすると、必ず表皮の破片が胚乳と混ざり合ってしまい、そうなるともうきれいな胚乳部分だけを取り出すことは不可能です。よって小麦独特のカニのような構造が、「段階式製粉方法」を実践する理由です。そのため小麦の製粉工程は複雑になり、これがコイン精米機は存在してもコイン製粉機ができない理由でもあります(#800)。

また「精選工程」も重要です。美味しい小麦粉になるためには下準備が必要です。野菜もスーパーで買ってきてそのまま調理するわけではありません。傷んでいる部分は取り除き、洗ってきれいにします。小麦も同じです。工場に搬入された小麦には、様々な不純物(これを夾雑物(きょうざつぶつ)といいます)が含まれています。これら夾雑物をきれいに取り除く工程を「精選工程」といいます。

夾雑物は量としては僅かですが、石ころ、麦わら、他の穀物(とうもろこし、大豆)などが含まれ、また小麦であっても身の細った小麦からは、良質の小麦粉はとれないので、精選工程で除去します。この精選工程が不十分であっても、夾雑物は小麦と一緒に製粉され、文字通り粉々になってしまい、見た目にはその違いはわかりません。しかし料理同様、本来必要でないものが混ざると雑味が増え、うどんにしたときの色、味、風味などの品質は当然劣化します。「きちんとした精選」、これが美味しい小麦粉のための重要なポイントです。