#915 うどん用小麦粉についての質問・・・小麦と小麦粉の熟成

【③小麦粉の自家配合に対する考え方】
そばは挽きたてが美味しいと、誰もが知っています。老舗のそば屋さんでは、玄そばの状態で保存しておき、そばを打つ前に、石臼で挽くところも多くあります。それは挽きたてが一番いい風味のそばを提供できるからです。コーヒーもそうです。コーヒーをたてる前に、挽いたコーヒーが、一番香りがいいのです。またコメも搗きたてが一番です。つまりそば、コーヒー、コメは全て粒の状態では、長期間保存が可能ですが、挽いた瞬間から酸化つまり劣化が始まります。

小麦も基本的には同じですが、若干事情が異なるので、その辺りを少し丁寧に説明します。コメは新米、蕎麦は新そばと言われるように、収穫したてが良いと誰もが知っています。しかし小麦はそうではありません。収穫直後の新しい小麦から挽いた粉はおいしいパンやケーキになりにくく、少し時間が経過した方が使いやすいのです。収穫直後の小麦粒は、一つひとつの細胞が生きていて、酵素の活性が強く、小麦粉生地を軟らかくする還元性物質も多く、不安定な状態にあります。こういう状態の小麦粉でパンやケーキをつくっても、思うように膨らまないことがあります。

しかし小麦を収穫してから少し貯蔵しておくと、自然酸化が進み徐々に安定な状態になります。この小麦を製粉すると、小麦粉の粒子に空気が混ざり、自然酸化が進み、安定した状態となり、おいしいパンやケーキに加工しやすくなります。このような小麦の微妙な変化を「熟成(エージング)」といいます。つまり小麦の場合は、蕎麦や玄米と異なり、収穫後の「粒」での熟成が必要となります。また従来は「小麦粒」だけでなく、「小麦粉」についての熟成も必要であると考えられていましたが、現在ではそれほど重要視されていません、というかむしろ「新しい小麦粉ほど好ましい」といえます。以下、その理由について説明します。

理由としては2つあります。ひとつは製粉された小麦粉は、直ちに使用されるわけではなく、流通され実際にユーザが使用するまでには、最低でも数日はかかり、その間に熟成は進むという考えです。実際、「小麦粉の熟成期間は短くても問題になっていない」との報告は多くされています。そしてこちらがより重要ですが、製粉工程における空気搬送システム(ニューマ方式)の導入により、製粉終了時点で既に熟成が完了しているという考えです。現在の製粉工程では、衛生的な管理を行うために、工場内の小麦や小麦粉はすべて空気の流れによって搬送するニューマ方式を採用しています。その結果、小麦粉は強制的に空気にさらされるため、急速に酸化・熟成が進みます。実際、製粉後の小麦粉水分は、製粉前の小麦水分より1%以上低く、この水分ロスは空気搬送中に失われたものです。また大規模製粉工場では、小規模製粉工場に比べ、総搬送距離が長くなるため、水分ロスもそれだけ大きくなります。結局のところ小麦粉での熟成は必要なく、「小麦粉は新しいほど新鮮で風味が良い」と言っても過言ではありません。

うどんは、原料が小麦粉、塩、水といった極めてシンプルな食品です。よって主原料である小麦粉がいかに重要であるかは、明らかです。しかしどんな素晴らしい小麦粉も時間の経過とともに、風味、艶、旨味などは徐々に低下します。繰り返しますが、「小麦粉は新しければ新たしいほど良い」のです。

さて小麦粉の自家配合(うどん店における)については様々な意見があります。こだわりを持って数種類の小麦粉を自家配合するお店もあります。しかし誤解を恐れずに言えば、基本的には1銘柄、多くとも2銘柄までであると考えます。理由は、自家配合では手間がかかる上に完全な混合は簡単ではないこと。配合に時間をかけるよりも、うどんの製造そのものに手間暇かける方が、結果的に良いおうどんができるはずです。また各製粉会社は、各銘柄がそれ単体でベストなうどん用小麦粉と判断して製品化していることも理由です。結局、鮮度の良い小麦粉を使用するとなると、新しい小麦粉を仕入れ、単一銘柄でどんどん回転することが得策であると考えます。