#916 「運動脳(アンデシュ・ハンセン著)」

「メンタル脳」、「ストレス脳」(#909)と並ぶアンデシュ・ハンセン先生の代表作「運動脳」をご紹介。結論を一言でいうと、「身体を動かすことほど脳に良い影響を及ぼすものはない」。現代社会においては、全世界で2億8000万人もの人々がうつで苦しんでいますが、うつ病に最も効果的な治療法はランニング。そして毎日20~30分のウォーキングは、うつ病を予防し、気持ちを晴れやかにしてくれます。

今を生きる私たちと1万2000年前の狩猟採集民とは、ほとんど変わりません。もちろん話す言葉や経験することは異なりますが、身体機能は頭からつま先まで何一つ変わりません。また認知機能や感情もそっくり同じものが備わっています。つまり私たちの脳は、かれらのそれとほとんど変化していないのです。ところが生活習慣は一変し、当時身体が適応していた生活からは遥か遠ざかったにもかかわらず、私たちの脳は、今もなおサバンナで暮らしていた当時のままです。そしてその環境変化が現代の様々な弊害をもたらしているのです。

人類の歴史において近年ほど短期間のうちに生活様式が変わった時代はありません。産業革命以降の200年間、またネットか急速に普及した直近の20年間における急激な変化を、私たちはこれまで経験したことがありません。そして生活環境の変化により身体を動かす必要性は半減しました。本来であれば人類の進化は何万年もの年月をかけて緩やかに進むことを考えると、私達の生活様式は、脳の進化速度を遥かにしのぐ速さで変わったことになります。つまり生活様式の変化に、肉体が追いついていない状態なのです。生物学的には、私たちの脳と身体は今もなお、当時のサバンナにいるのです。

近年の研究により運動をすれば、脳機能が強化され、気分が晴れやかになり、不安やストレスが和らぐことがわかりました。また創造性が増し、集中力が高まります。逆に身体を動かさないと不安にとらわれて悲観的になり、物事に集中できなくなります。つまり現代人を悩ませる「あらゆる心身の不調は、身体を動かさなくなったことが原因」なのです。逆に運動やトレーニングをすると、アイデアを活かす力が高まるだけでなく、アイデアそのものが溢れでるようになると考えられています。

運動の素晴らしさはそれだけではありません。毎日、意識的に歩くことで認知症の発症率が40%も減少することが、科学的に証明されました。もしこれが「薬」であれば、あっという間に世界中に広まり、飛ぶように売れ、抗生物質以来の革新的な発明としてもてはやされたに違いありません。またその薬を開発した研究者たちはノーベル賞を受賞し、大勢の人々が認知症を防止するために、我先に処方箋をもらいに走るに違いありません。ところが科学者が発見した認知症防止策は、「ただ歩く」という単純なものなのです。しかもそれは毎日ではなく、週に5日で充分なのです。

繰り返しますが、人類は近年のごく短期間に生活様式が激変し、身体を動かす必要性は半分に減少しました。人類の進化が何万年もの年月をかけて緩やかに進んだのに対し、私たちの生活様式は、脳の進化の速度をはるかにしのぐ速さで変わったのです。つまり現代は、生活様式の変化に、肉体が追いつかない状態なのです。私たちの脳と身体は今もなおサバンナにいた狩猟採集民族と同じなのです。

運動すると気分が晴れやかになり、不安やストレスが和らぎ、創造性が増し、集中力が高まります。逆に身体を動かさないと不安にとらわれ悲観的になり、物事に集中できなくなります。現代人を悩ます「あらゆる心身の不調」は身体を動かさなくなったことが原因と考えられています。

私たちはソファに座ってポテトチップスをほおばることに快感をおぼえます。それは狩猟採集民時代には、高カロリーの食事のチャンスは滅多になく、あれば横取りされないうちにさっさと平らげていました。私たちは高カロリー食品を美味しく感じる理由はそこにあるのです。ランニングやウォーキングをするよりもソファに寝そべりテレビをみる方が快適なのは、「狩猟採集民の脳」がそのまま座っているように命じるからです。食べ物がなくなったときには、そのエネルギーが役に立つので「動かないでエネルギーを節約しなさい」と脳が言うのです。

「人間には歩くことが何よりの妙薬となる」。これは医学の父、ヒポクラテスの言葉です。はるか2500年前、ヒポクラテスは身体を動かすことが、肉体的かつ精神的な健康のために欠かせないことを既に知っていたのです。