#917 全粒粉100%が膨らまない理由

先日、弊社にあるHB(ホームベーカリー)で、全粒粉100%食パンを焼いてみました。結果は2度試して、2度ともうまく膨れませんでした(画像下)。全粒粉自体のタンパク含有率は、11.7%と正真正銘の強力粉なので、本来ならば膨れるはずですが、なぜ膨れないのか考えてみました。その前に、パンが膨れる理由をさらっと復習します。

 

小麦粉を水と一緒に捏ねることで、小麦粉中のたんぱく質(グリアジンとグルテニン)が水と一緒になってグルテンを形成します。グリアジンは粘性を、グルテニンは弾性を有するので、グルテンはチューインガムのような粘弾性を有します。そしてこのグルテンが生地中で立体網目構造を形成することで、小麦粉生地は一つにまとまり、また自由に成型可能です。

小麦粉生地はよく鉄筋コンクリートの建物に喩えられます。この場合、グルテンが鉄筋、そしてでんぷん質がコンクリートです。チューインガムのようなグルテンから鉄筋を想像するのは容易ではありませんが、加熱することで失活し、固まるの鉄筋のイメージに近くなります。

次にパンの膨れる仕組みを復習します。パンの原材料としては、小麦粉以外にイースト菌、砂糖、油脂、食塩などがありますが、本質的な要素は①小麦粉②水③捏ねる動作の3つとなります。小麦粉に水を加え、捏ねるとグルテンができ、そのグルテンは生地中で立体網目構造を形成します。

発酵が進むと、グルコースが分解され、エタノールと二酸化酸素が発生します(アルコール発酵)。そしてオーブンで加熱するときもガスを発生し続け、パンはどんどん膨れます。このときグルテンも一緒に延びますが、加熱されることにより活性を失います。つまり熱変性を起こし、伸びきったところで硬くなります(この事実はぶよぶよしたグルテンを、沸騰しているお湯につけると柔軟性を失い硬化することからも確認できます)。

このようにして、パンの中にしっかりとした骨組みができあがり、これは活性を失っているので冷えても固まったままです。こういう状態をイメージすると、グルテンは建物の中の鉄筋の役割をしているという感じがよく理解できます。次の図は、グルテンとガスの発生量について着目したもので、更に理解の助けになります:

①ガスは充分あるが保持力不足
アルコール発酵はうまくいき、ガスが充分に発生して生地は膨らんだけれど、それを保持する力が不十分(グルテン不足)だとパンが凹んでしまいます。

②ガス、保持力共に充分
膨らんだあとも、充分なグルテンがあれば、パン生地を支えることができます。

③ ガス不十分、保持力充分
アルコール発酵がうまくいかないと、ガスが発生しないので、たとえ充分なグルテンがあっても、パンは膨らむことはありません。

さて今回の全粒粉100%パンが膨らまない原因は、上記➀でも③でもありません。膨れなかった理由は、「小麦ふすま片がグルテンの立体網目構造の中に入り込み強度を著しく低下させた」ことです。わかりやすく言うと「小麦ふすまの粗い粒子がグルテンのネットワークを切断しため、鉄筋が至るところで分断され建物(食パン)が崩れた」ことになります。実際、全粒粉で湿麸(しっぷ)を採取しても、ふすま片が邪魔をしてひとつの塊にはならず、バラバラになってしまい全体の強度を低下させていることがわかります(画像参照)。

ではなぜふすま片が原因となったかというと、それはふすま片の「粗さ」にあります。小麦ふすまは食物繊維であるため強く挽き混んでもなかなか小さくならないのです。小麦粉に比べると小麦ふすまの粒度はかなり粗くそれがグルテンネットワークを切断するのです。