#920 「食料・農業・農村基本法」改正・・・食料安全保障の確保

「食料・農業・農村基本法」は、日本農政の基本理念や政策の方向性を示す法律で、現行法は1999年に制定されました。具体的には(1)食料の安定供給の確保、(2)農業の有する多面的機能の発揮、(3)農業の持続的な発展と(4)その基盤としての農村の振興、を理念として掲げ、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展を図ることを目的としています(農水HPより)。

そして制定からおよそ四半世紀が経過し、昨今では、世界的な食料情勢の変化に伴う食料安全保障上のリスクの高まりや、地球環境問題への対応、海外の市場の拡大等、我が国の農業を取り巻く情勢が制定時には想定されなかったレベルで変化しています。よってこうした情勢の変化を踏まえ、令和6年5月29日に改正法が成立しました。今回の改正で注目すべきは、第一の基本理念が「食料の安定供給の確保」から更に踏み込んで「食料安全保障の確保」へと改められ、「食料安全保障」が重要視されたことです。

国連食糧農業機関(FAO)は食料安全保障を「すべての人が、いかなるときも、活動的で健康な生活のために、食生活上のニーズや食の嗜好に合った十分・安全な栄養のある食べ物を物理的・社会的・経済的に得られる状態」と定義しました。簡単に言うと、「食料安全保障とは活動的・健康的に生きるための食料を常に十分得られること」です。食料安全保障という言葉が使われ始めた時期は、1970年代にさかのぼります。世界的な人口増加と経済成長によって食料消費が拡大し、食料の値上がりなどが人々の生活を脅かし始めたことが背景にありました。

食料安全保障の見地からいうと、私たちの主要穀物である米と小麦はとりわけ重要です。前者の米は100%自給であるのに対し、小麦は多くを外国産に頼っています。そこでこの機会に簡単に日本における小麦の食料安全保障、つまり「私たちが活動的・健康的に生活できるためにいかに小麦を十分にかつ安定的に得ることができる」かについて考えてみます。

現在、日本の年間小麦需要600万㌧のうち国産小麦は約100万t、輸入産小麦は500万tとなり、国産比率は約20%です。理想は米同様100%自給ですが、小麦栽培は冷涼かつ乾燥気味の地域が適しているため温帯モンスーン気候の日本は小麦栽培にとっては適地ではないのです。よって今後小麦の自給率アップは重要ですが、100%になることは想定しづらく、当面は現状のように輸入小麦と国産小麦の両輪で需要を賄うことになります。

現在の小麦輸入は国家貿易、つまり農水省が輸入業務を代行してくれるお陰で、システム的には安定的に運用されています。また主要輸入国は、米国・カナダ・豪州であり、これらの国は地政学的にも安定しているのに加え小麦の品質も非常に優秀です。2007年に世界的な干ばつが起こったときに、将来的に小麦輸入国を増やす可能性として、世界の主要小麦を調査しましたが、品質においてこの3カ国を超える地域はなかったように記憶しています。つまり現状では輸入国及び輸入方法もほぼベストな方法が構築され運営されていることになります。ただ2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻は、日本には直接関係はなかったものの玉突き現象により世界的な穀物供給不安を招きました。よって今後とも国際情勢には細心の注意を払う必要があります。

一方、国産小麦は平成12年産(2000年)より民間流通に移行することで市場原理が導入され、様々な新品種の開発が促進されるようになりました。特に、パン用・中華麺用に適している硬質小麦は、以前は限定的であったのが、最近では占有率が26%までに伸長しました。うどん県でも「はるみずき」の生産が始まり、今後が楽しみです。ただ国産小麦は、規格内であればすべて売買され製粉・流通されるため、豊凶変動(豊作・凶作による品質の変動)による品質への影響は避けられません。よって旧穀と新穀を混ぜ合わせて(混麦)製粉することで、低品質小麦の影響を和らげるといった工夫が必要です。そしてそのためには、年をまたいだ保管計画が必要となります。