#921 小麦の話(西川浩三・長尾精一共著)

本書「小麦の話」は、前半の小麦については西川先生が、そして後半の小麦粉については長尾先生が担当されています。かなり昔の本ではありますが(1977年刊)、後半部分から個人的に参考になった点をまとめてみました。

【小麦粉の種類が多い理由】
小麦粉はタンパク質含有量の多い順に強力粉・中力粉・薄力粉と分類され(種類による分類)、また灰分量の少ない順に特等粉・1等粉・2等粉・3等粉・末粉(すえこ)と分類されます(グレードによる分類)。食品用としては2等粉までしか使用されないので。食品用小麦の種類としては、(強力粉・中力粉・薄力粉)と(特等粉・1等粉・2等粉)の組合せ9種類で事足りるような気がしますが、実際はそうではありません。

大手製粉会社が業務用途として提供する小麦粉の種類はゆうに100種類を超え、これは小麦の本場である欧米のそれを遥かに上回ります。その主たる理由は、欧米における小麦粉製品はパン・パスタが主体になるのに対し、日本ではそれに加えて中華麺・うどん・そうめん・和菓子(まんじゅうなど)など多岐にわたるためです。特に食味・食感となると小麦粉の2/3以上を占めるでんぷん質の性質に大きく影響されるため種類が多くなります。

小麦粉価格は、名前の通り特等粉>1等粉>2等粉の順番になりますが、用途によっては上位等級が必ずしも良いとは限りません。たとえば大判焼き(一般には今川焼)には中力粉が使用されますが、特等粉や1等粉よりもやや下級粉を使用する方が、生地がしっかりとして風味の良い仕上がりとなります。

【製粉時における用途別小麦の選定方法】
小麦は農産物であるため、同じ地域の同じ品種の小麦でも、その年の耕作条件により品質が異なります。特に狭小な農地に加え、麦作には最適とは言えない温帯モンスーン気候の日本においてはその傾向が強くなります。よって小麦粉の浮動を防ぐための一つの方法が、製粉時における2銘柄もしくは2ロット以上の小麦の配合です。たとえばうどん用小麦であればASWが定番ですが、ASW100%ではなく、その一部をWW(ウエスタン・ホワイト)もしくは国産小麦で代替する方法です。こうすることで、もしASWに浮動があっても、その影響を軽減することができるからです。

【小麦の調質】
製粉する前に小麦に加水して一定時間寝かせることを「調質(ちょうしつ)」といいます。調質の目的は、小麦を眠りから覚まし、挽砕に都合のよい硬さに調節することです。調質により小麦粒の表面に付着している水分が、胚芽部分を通り内部に浸透すると、胚乳部は粉になりやすくなり、また表皮は適度の水分を吸収して強靭になり、砕けにくくなります。その結果、皮離れが良くなり、良質の小麦粉が採れやすくなります。

調質における加水量は、小麦によって加減します。たとえば硬い品種の小麦(硬質小麦)や、乾燥して硬くなった小麦には、多めに水を含ませる必要があるし、寒い時期には小麦粒も硬く縮こまっているので、多めの水でほぐしてやります。加水量は多過ぎても少な過ぎても製粉しにくくなり、できた製品の品質を損なうことになるので慎重に決める必要があります。そういえば、うどんづくりにおける加水量も、夏季は生地が軟らかくなるので減らし、逆に冬季は増やすので、類似点があります。

【小麦粒内の成分傾斜】
小麦粒の胚乳部分は約85%ですが、胚乳は表皮にしっかりと付着しているため、全て採り切るのは困難で、実際の小麦粉歩留りは80%以下になります。また小麦粉に含まれる各種成分は、均一に分布している訳ではなく中心部分と周辺部ではかなり差があります。一般的な成分傾斜は次のようになっています。

タンパク質の量 :周辺部ほど多い
タンパク質の性質:中心分ほど良好
灰分の量      :周辺部ほど多い
色調        :中心部分ほど冴えた淡黄色
でんぷんの量    :中心部ほど多い
脂質の量      :周辺部ほど多い