#923 フランスの小麦粉事情
ワールドグレイン(製粉業界紙)にフランスの大手製粉会社モーラン・スフレ(Moulins Soufflet)の記事が掲載されていたので、興味深かった部分をご紹介します。かいつまんで言うとフランスにおいても国内外の市場の変化、諸物価の高騰、嗜好の多様化が小麦粉業界に影響を及ぼしているという内容です。
大手製粉会社・モーラン・スフレはパリ郊外のコルベイユ=エソンヌに新工場を建設しました。建設の理由は、設備の老朽化に加え旧工場の規模が現在の市場規模に対して大き過ぎることです。旧工場は、19世紀後半に建設された歴史的な建築物であるため解体はせず、その外観を保持しつつ住宅用途に転用される予定です。単に老朽化した施設をそのまま解体せず、できる限り保存するのはいかにも歴史を大切にするヨーロッパ的思考でとても共感できます。「古いものは作ることができない」のです。日本は木造建築が多い地震国であることを考慮しても、もう少し古い建築物を大切に扱うべきだと思います。
新規に建設された工場は、日産450㌧ラインが2工場で、年間27万㌧の小麦が挽砕可能です(300日稼働)。現在同社は、フランスに9工場、ベルギーに1工場を所有し、年間100万㌧以上の小麦を挽砕しています。旧工場の規模が現在では大きすぎる理由は、国内需要が減少したのではなく小麦粉輸出需要が激減したためです。以前は、アフリカや中東諸国にフランスの港から小麦粉が大量に輸出されていましたが、現在では小麦輸出が容易になり、現地で製粉されるようになりました。具体的にはロシアやウクライナからの低価格小麦が、フランスの伝統的な小麦粉輸出市場に流れ込み、小麦粉の輸出需要が蒸発した結果、適正な生産規模に修正する必要があったわけです。
Omas社によるモーラン・スフレの最新鋭製粉工場
新工場の設備については、イタリアの製粉機器メーカーOmas社が担当しました。Omas社は日本では馴染がありませんが、選定の大きな理由は、旧ロール機と比較して最大30%の電力消費が削減可能であることです。これは、近年の電力コストの急騰を考慮すると大きな魅力です。Omas社はいかにもイタリアの会社らしく各製粉機械には、ガリレオ◯◯ふるい機、ミケランジェロ◯◯純化機、レオナルド〇〇ロール機といった名前がつけられ、いかにも優秀そうに聞こえます。
ところでフランスにおいても、消費者の嗜好や消費行動の多様化に伴い、パン屋さん事情も変化しつつあります。従来のフランスのパン屋さんには、強い職人気質の伝統があり、街角ごとにパン職人が一日中新鮮なパンを供給していました。しかしフランスといえども多忙な現代生活の中では、伝統の2時間ランチは徐々に減少し、その代替として手軽な軽食を選択するようになりました。
そしてパン屋さんの中にもサンドイッチ、ケーキ、コーヒーなどを販売し、客が店内で飲食できるイートインスペースを提供するお店が増えてきました。その結果、パン屋さんがフランスの伝統的なカフェ市場を少しずつ侵食し、その経営形態が変わりつつあります。ライバルはカフェだけではありません。マクドナルドなどのファーストフードチェーンとも競合するようになった結果、売上の80%がサンドイッチになったパン屋さんもあります。つまり従来のレストランに対し、価格優位性を強調し、競争力をつけ生き残りを図っています。
パン屋さんの多くは独立経営ですが、中には850店舗を擁し、ニューヨークにも支店がある「マリ・ブラシェール」のような大手チェーン店もあります。そういえば日本でも牛丼、イタリアン、うどん店などの専門店を大々的にチェーン展開している会社も数多くあり、各地域の独立店舗は防戦に追われています。