#932 小麦全粒粉①・・・2つの考え方

「小麦全粒粉(こむぎぜんりゅうふん)」と聞けば、漠然と「小麦の粒をそのまますべて挽きこんでできた粉」をイメージしますが、これはあくまでも一般常識的な解釈です。では実際に小麦全粒粉の定義は、どうなっているかというと、意外にも日本においては基準がなく、常識的な考え方で流通しているようです。つまり農林水産省とかJAS規格などにおいてキチンと定義されているわけではありません。国内では、小麦をそのまま粉砕機ですべて粉砕することもあれば、予め表面を少し研磨してから処理することもあるようです。

では海外の事情はどうなっているかといえば・・・。FDA(Food and Drug Administration = 米国食品医薬品局)という米国の政府機関は、食品・薬品などを中心に消費者が接する機会の多い製品の認可や違反取締を行う機関です。そしてFDAとAACC (American Association of Cereal Chemists = 穀物化学者学会)の両機関は、全粒穀物(Whole grains)を次のように定義しています:

“Whole grains shall consist of the intact, ground, cracked or flaked caryopsis, whose principal anatomical components—the starchy endosperm, germ, and bran—are present in the same relative proportions as they exist in the intact caryopsis.”
【訳】“全粒穀物とは、穀物の穎果そのもの、もしくはそれを粉砕、破砕またはフレーク状にしたもので、主要部分である胚乳、胚芽及びふすまが穎果に存在するのと同じ比率で含まれるもの。”

(財)製粉振興会では、上記の定義を次のように解釈しています:「粉砕などで穀粒を分画したものを再構成して製品を作るケースが多いことを想定し、同じ穎果からのものでなければならないとは定めておらず、小麦の場合は、異なるロットの原料からの画分を配合したものでもよいと解釈できる。また配合比率についても小麦での常識的な割合で良いようである」。

上記を「小麦」の場合について補足すると、穎果(えいか)とは実の部分、つまり「小麦の粒」。また分画(画分ともいいます)とは、「複数の成分が混合された物質を分離させて、その混合物質を構成する成分に分けること」。よって小麦の標準的構成比(胚乳83%、表皮15%、胚芽2%)とすれば、例えばロットAから胚乳、ロットBから表皮、そしてロットCから胚芽を個別に抽出して、後でそれらを標準的構成比(胚乳83%、表皮15%、胚芽2%)に混ぜあわせて小麦全粒粉を作ってもよいという解釈です。つまりどんな種類の小麦・ロットであろうとも最終的に標準構成比になれば、どんな組合せもOKということです。

さらに言えば、標準的構成比(胚乳83%、表皮15%、胚芽2%)についても、常識的な範囲で変動させてもよいことになります。その理由は、小麦には様々な種類があり、また同じ種類でも太った実とやせ細った実では、構成比率は異なります。つまり小麦の粒が大きくなるほど胚乳比率は高くなり、逆に小さくなるほど低くなるからです。よって後で画分を配合するときは、標準的構成比(胚乳83%、表皮15%、胚芽2%)でなくても常識的な範囲で変動させて(胚乳88%、表皮11%、胚芽1%)とか(胚乳80%、表皮18%、胚芽2%)でも良いということです。さすがに(胚乳95%、表皮5%、胚芽0%)という構成比は、表皮部分があまりに少なく、常識的に難しいように感じますが、あくまでも常識的な範囲で変動しても良いという考えです。よって小麦全粒粉の考えを整理すると次のようになります。

【小麦全粒粉①(狭義)】
小麦をそのまま丸ごと製粉してできあがった小麦粉

【小麦全粒粉②(広義)】
同じ原料の小麦から作られたものでなくても、その小麦粉の成分組成がほぼ(胚乳83%、表皮15%、胚芽2%)である小麦粉。またこの構成比は常識的な範囲で変動させてもよい。