#933 小麦全粒粉②・・・広義全粒粉を支持する理由
【広義全粒粉登場の背景】
全粒粉といえば、素直に「小麦の粒をそのまま挽き込んだ小麦粉」をイメージします。ではFDAはなぜ全粒粉の定義を拡張したのでしょうか。ここからは推測になりますが、最大の理由は食味の向上にあると考えます。飽食の時代と言われて久しい現代では、欲しいものは何でも手に入ります。特に加工技術が向上し、食品の精製度が高くなった結果、食品の口当たりは良くなった反面、食物繊維が削ぎ落とされてしまいました。よって現代の食生活では、食物繊維は積極的に意識しないと必要量が摂取できません。
全粒粉は小麦粉よりも多くのミネラルやビタミン類を含んでいますが、なんといってもその魅力は表皮部分に含まれる豊富な食物繊維です。しかも小麦粉と同量摂取しても、表皮部分に相当する胚乳をカットできるため、自然なカロリーカットが可能です。つまり一石二鳥の理想的な食材ゆえ、できれば小麦粉すべてを全粒粉で代替することが理想ですが、現実には全粒粉の普及はそれほど進んでいません。理由は小麦粉の方が食味において優れるからです。いくら栄養価的に優れていても食品であるからには、食味が良くないと普及しません。以下は全粒粉の食味を損ねる2大要因です。
【①不純物】
工場に搬入されたばかりの小麦の表面には塵や埃などの不純物が付着しています。そのほとんどは精選工程において除去されますが、完全に処理することは困難です。小麦をよく見ると縦にクリーズ(粒溝)という溝が走り、そこは凹んでいるため、不純物が溜まりやすい構造になっています(画像参照)。よって小麦を粒のまま挽き込むと、僅かであっても雑味が足を引っ張り、全体の食味を損ねることになります。
【②低グレードの胚乳部分】
小麦に含まれる胚乳部分は全体の約85%ですが、それはすべて同品質ではありません。小麦のグレードは、灰分(かいぶん)という数値によって区別されます。灰分は小麦粉を高温で燃やしたときに残る灰のことで、この数値が低いほどグルテンの伸展性が良くパンを焼いたときになめらかかつふんわりと焼き上がります。逆に灰分が高くなると、粘りのない「パサパサ」、「もそもそ」した食感のパンになります。そして小麦の部位に着目すると、同じ胚乳でも中心部分は灰分の少ない良質であるのに対し表皮部分に近づくほど灰分が多くなります(画像参照)。
【ハイブリッド全粒粉】
よって全粒粉と同じ成分組成をもちながら食味を向上させるには、胚乳部分はできるだけ中心部分を集中的に取りだし、また表皮部分はクリーズ付近を避けたきれいで大きなふすま片を集めてくればよいのです。幸い現代の製粉方法は、段階式製粉方法を採用しています。これは小麦粒を段階的に小さくしながら最終的には1粒の小麦を50種類程度の上り粉に取り分ける製粉方法です。面倒ですが、各部位の交差を回避できる有効な手法なので、現在では小麦製粉の標準的手法となっています。
よってこれらの上り粉の中から良質な胚乳部分を抽出し、また純粋なふすま部分はさらに微粉砕した後、両者を再構成すれば、全粒粉と同じ組成をもちながら食味に優れた全粒粉となります。これは2つの異なる部位を再構成した全粒粉なのでハイブリッド全粒粉と呼んでもいいかも知れません。最後にもうひとつ重要な点があります。クリーズ部分には、塵や埃などの微細な粒子が溜まりやすいことは既に説明しましたが、その構造上、それ以外の不純物が付着しないとも限りません。そう考えると全粒粉よりもハイブリッド全粒粉の方が、より安全性が高いといえます。つまりハイブリッド全粒粉は、良好な食味・安全性・豊富な食物繊維・低カロリー性を兼ね備えた四拍子揃った全粒粉となります。