2011年7月のお知らせ

空の色は明るいのに、霧のような細い雨が降っています。赤の雨コートを着たわんちゃんに会いました。頭が濡れないようにフード付きです。かわいい!!

2005年のある日、お客様からのご注文の中にメッセージが添えられていました。

「私は94歳になりました。大の「ソバ」好きです。3月6日から黒柳徹子さんと、コマーシャルに共演します。(中略)どうぞ、ご覧下さい。神奈川県横浜市・熊田(くまだ)千佳慕(ちかぼ)」。

恥ずかしながら細密画家「熊田千佳慕」さんのお名前をこのとき初めて知りました。1911年、横浜市の生まれ。ご自身の著作「横浜ハイカラ少年記」の中では、次のように自己紹介されています。「94歳の古老。途中、一度もリタイアしたこともなく、絵の道一筋に歩いてきました。ただひたすらに、虫や花の絵を描きつづけてきましたが、私は昆虫学者でもなければ、虫のもの知り博士でもありません。ただ、虫の友だちにすぎません。長いあいだ彼らとふれあいながら、彼らの世界を、純粋な目と心で描いてきた画家です。私と虫や花たちのとのあいだには、いつも変らぬ友情が続きました。その友情の道は、これからも続くことでしょう」。熊田さんの慎ましい、そして優しいお人柄が伝わってきます。

絵に使う画材は、6Bの鉛筆と細い筆、そしてわずかな絵の具。消しゴムは使わず、虫や花たちを「じ~っ」と見つめ、はじめて1本の線を描きます。徹底した観察にもとづく細密描写は、「小さな人たちに見せる絵に、うそがあってはならない」という信念から生まれました。去年の11月、NHKの「日曜美術館」という番組で、熊田さんが紹介されました。虫たちと同じ目線になるまで、腰をかがめ、虫を見つめます。熊田さんの目の輝きは、小さな子供のように思えました。そして、ライフ・ワークとして、「ファーブル昆虫記を絵画にする」という仕事を始めました(アンリ・ファーブル(1823-1915)はフランスの昆虫・博物学者。小・中学校の教師をしながら、ファーブル昆虫記を編纂しました)。

私の好きな絵画は、「ファーブル昆虫記の虫たち」の中で紹介されている「天敵」という作品です。「ガマガエル」に食べられそうになった「オサムシ」を描いた作品です。ガマガエルに見つめられているオサムシは、動くと(居場所がわかり)食べられてしまいます。だから、静かに身動きもしません。熊田さんは、とっさに一匹の「ミツバチ」を、ガマガエルとオサムシの間に描きました。オサムシを助けるために、ガマガエルの視線をそらそうとしたのです。熊田さんが「私は虫であり、虫は私である」と悟った瞬間です。「ファーブル先生は、私に虫を通して、純粋な愛を授けてくださいました。虫も、花も、自然は美しいから美しいのではなく、愛するからこそ美しい」。

組の中で、日常生活も紹介されました。何気ない日常生活の中に、たくさんの幸せを見つけます。お会いしたことのない熊田さんがより身近に感じられました。2006年のお便りには、「今年の夏は、おソバをお昼の定食にしたら、おかげさまで体調がよくなり、山積みの仕事を片付けました。秋になっても好調で、幸せです。みなさんによろしく。熊田千佳慕」。そんな千佳慕さんも2009年8月13日にご逝去されました(享年99歳)。今頃はきっと天国で、思う存分お描きになっていることでしょう。雨上がりのあとは、いろんな虫たちに出会います。細長いミミズ、アゲハチョウ、かたつむり、カニ。「かめ」も、ゆっくりと歩いています。驚いて「うわ~っ」と声をあげてしまいました。熊田さんに笑われそうです。

7月のお休みは 9日(土曜日)、18日(海の日)
   それと日曜日です。

近所に「まる」というわんちゃんがいました。ある夜、ひとりで散歩に出かけたまま帰って来ません。雨が降った日は、「まるは、何処で何をしているのだろう・・」と心配になります。おからだ 大切になさって下さい。

木下製粉株式会社  平成23年1月1日