2022年5月のお知らせ
4月下旬、早朝の空気の中から、優しい香りが漂ってきました。見上げると、白い藤の花が微笑んでいます。
3年ごとに開催される瀬戸内芸術祭。坂出市の沙弥島(しゃみじま)では春会期(4月14日~5月18日)が開催されています。周囲約2kmの沙弥島は、臨海工業地区計画として埋め立てられ、昭和42年に陸続きとなりました。沙弥島には「素敵な歴史」が伝えられています。日本に現存する最古の和歌集である「万葉集」は7世紀前半から約130年間、天皇・貴族・下級官人・防人・大道芸人・農民など、さまざまな身分の人々が詠んだ和歌が収められています。万葉集を代表する歌人の一人、柿本人麻呂は奈良・大阪そして九州へと旅をしながら、和歌を詠みました。文武(もんむ)天皇(683年~707年)の御代、朝廷からの使者として西国へ赴く途中、「風と潮流を避けるために沙弥島に立ち寄った」と記され、讃岐の風景をほめたたえた和歌を詠んでいます。
玉藻(たまも)よし 讃岐の国は 国からか 見れども飽かぬ 神からか
(玉の藻のような美しい讃岐の国は、神さまのお心添えのおかげでしょうか。見ても飽きません。)
それ故、古くから沙弥島は「万葉の島」と呼ばれています。瀬戸内芸術祭の行事として、浜辺に隣接する「万葉会館」にて、お茶会と「香を楽しむ」と題された講演が開催されました。推古3年(595年)、淡路島に流れ着いた一本の流木を島人が火にくべたところ、言葉で表現できないほどの「香り」が立ち上がり、島人は驚きました。記録に残る日本最古の「香木」だそうです。
「香道(こうどう)」の歴史は奈良時代にはじまり、仏教とともに日本に伝えられた「お香」は、東大寺や法隆寺などの寺院での宗教的儀式の「お供えの香」として使われました。平安時代になると貴族の間に広まり、自分の好みに合った「香」を調合するようになりました。室内に「香」がただよい、衣服に「香」を焚き染め、日常生活を楽しみました。現代に見られる「香の作法」の基盤は江戸時代に完成しました。
当日、3種類の「香」を聞き当てる「組香(くみこう)」という競技(遊び?)が披露されました。香道では、「香」が伝えるものを、心で聞き取るということから、「香を聞く(聞香(もんこう))」という言葉が使われるそうです。お客さまの回答は、「執筆」と呼ばれる記録係により、記録紙に毛筆で書かれていました。館内後部にいた私の席にも、重厚な、優しい「香木」のかおりが届きました。(私はもちろん)館内のほとんどの方は、初めて「組香」を体験する様子で、物静かな「組香」の作法に魅了されていました。日常生活の外に身をおいて、静寂な時間だけが流れている「ひととき」に気づきました。
5月3日(憲法記念日)・4日(みどりの日)・5日(こどもの日)・21日(土曜日)・28日(土曜日)そして日曜日、お休みを頂きます。
沙弥島の浜辺で、瀬戸内海の島々を見ながら柿本人麻呂が眺めた情景を想像しました。和歌は、思いうかびません(笑い)。おからだ 大切になさってください。