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小麦について
小麦と大麦、どちらが大きいかご存知ですか?
「名前からして当然、大麦の方が大きい」と思う方がいる一方、「敢えて聞くくらいだから小麦の方だろう」と考えるかも知れません。
結論を先に言うと、名前は粒の大きさには関係ないようです。画像はさぬきで栽培されている小麦(「さぬきの夢2000」と「さぬきの夢2009」)と大麦(イチバンボシ)ですが、むしろ粒の状態では小麦の方が大きいくらいです。つまりこの「大」と「小」は大きさには関係ありません。ちなみにイチバンボシは香川県で栽培されている大麦で、下図の大麦の中では「はだか麦」に分類されます。
英語では、小麦のことをウィート(wheat)といいますが、大麦はビッグ・ウィート(big wheat)とは言いません。大麦にはバーリー(barley)というちゃんとした名前があります。それだけではありません。私たちがライ麦と呼んでいるものはライ(rye)、そしてえん麦(オート麦)はオーツ(oats)だし、小麦(wheat)とは全然関係ありません。栃木県農業試験場HPをみると興味深い例として、植物分類上は「小麦」と「大麦」の違いは、「なす」と「ジャガイモ」ほどの違いがあり、全く別の植物とあります。日本語だと、ナントカ麦という名前が付いていると、無条件にみんな兄弟みたいに思ってしまいますが、なまじっか「麦」という字が付いてることが混乱を招いているような気がしないでもありません。
で、話は小麦と大麦に戻り、「ではなんで日本では何でそんな紛らわしい呼び方になったのか?」というと、それは粒の大小といった物理的な理由によるものではなくて、その用途や価値によるものだというのが正解のようです。つまり「大」はメジャー(主要なもの、重要なもの)であるのに対し、「小」はマイナーなものという基準によって命名されたというものです。言われてみれば「大豆」と「小豆」についていえば、確かに大豆の方が圧倒的に消費量が多いので納得できますが、麦の場合はどうもしっくりきません。
つまり現在全世界では毎年6億トンの小麦が生産されているのに対し、大麦はその1/4の1億5000万トン程度にしか過ぎず、小麦が圧倒的に優勢です。また小麦はパン、うどんなどの麺類、またケーキ・ビスケットなど私たちの身近な食品の原料なので馴染みが深いですけど、大麦となるといま一つピンときません。大麦の用途はというとビール、焼酎、味噌、家畜の飼料などで、最初にご紹介した香川で栽培されているイチバンボシは、味噌や麦茶などに利用されます。しかしいずれにしても、大麦は直接私たちの目に触れることが少ないので、小麦に比べるとどうしてもマイナーなイメージは避けられません。
「ではなぜ小麦が大麦でなくて、大麦が小麦ではないのか?」という素朴な疑問が湧きますが、昔は大麦の方がその存在価値が大きかったことが理由のようです。つまり皮を削ってご飯に混ぜたり、麦茶、味噌、醤油などの原料に利用したり、「大麦」は昔の日本の食生活にとって不可欠だったことが、大麦が大麦の名前を冠した理由のようです。また大麦の方が小麦より加工が簡単であったことも、大麦が先にメジャーになった理由の一つだと考えます。小麦は中の胚乳を取り出し、粉にしてこそ利用価値があります。それには石臼やふるいの技術など、高度な加工技術が必要ですが、石臼が普及したのは江戸時代頃だと言われています。
さぬきうどんは弘法大師が唐から持ち帰ったという逸話が有名ですが、これには確たる証拠はありません。しかし江戸中期の百科事典『和漢三才図会』(わかんさんさいずえ1713年)にはさぬきの小麦の記述が明記されているので、江戸時代には小麦がある程度流通していたことは確かです。このことから小麦が広く流通するようになったのは、大麦に比べる大分後のことだと考えてよさそうです。つまり石臼の歴史や史料などを考慮すると、小麦がある程度普及したのは300年程昔のことと考えるのが妥当でしょう。よって大麦、小麦というのはそれらが命名された時代の状況を反映したものじゃないか、っと。
小麦粉は、放置しておくと虫がつきます。
開封して空気が触れるようになるとその発生率は高くなり、梅雨から秋口にかけての高温多湿の季節は虫にとっては絶好の生息条件になります。小麦粉に発生する害虫は、一般には無害ですが実際に見るとあまり良いものではありません。
「虫がついたり、カビが生えたりするのは、防虫処理や防かび処理をしてない証です」という屁理屈というか一般論は、現在ではなかなか支持されません。現在の食品は、安全・安心で、尚かつ虫はつかない、カビは生えないという、一見矛盾とも思えるような厳しい条件を満たしている必要があります。
製粉前の小麦は表皮という殻に被われているので、小麦粉に比べると害虫が発生する頻度は、低くなりますが、それでも条件が揃えば発生します。そのため小麦の状態で長期に亘り保管するときは、燻蒸作業が必要になります。燻蒸という言葉を聞いただけでアレルギーを起こす方もいますが、現在のように大量の小麦を処理する場合は、国産小麦、外国産小麦を問わず、そのような作業が必要になってきます。
では燻蒸作業をしないとどうなるかといえば、コクヌストモドキに代表されるような穀物害虫がやってきて、小麦を食べてしまいます。実際には画像のような無惨な状態になってしまいます。これを見ると、虫は皮よりも中の胚乳の方が好きだということがわかります。だって外側の殻だけ残って、中はきれいに空洞になっているからです。虫は正直なのでおいしいところしか食べません。だから中心部分の方が美味しいのに違いありません。
虫がそうなら人間も同じです。うどんについて言うと、極端に中心部分だけ取り分けることについては若干異論があるものの、一般的傾向としてはグレードの高い小麦粉の方が、うどんの評価は高くなります。表皮部分が少し混じった2等粉で作ると色がくすんで、喉ごしもざらざら、ちょっとべとついて、コシもキレも良くありません。その点1等粉で打つと、つるつる、しこしこ、コシはあって、喉ごし良好、また見た目も淡黄色で見るからに食欲をそそります。1等粉と2等粉で同じようにつくったうどんを、そのまま黙って試食してもらうと、100人が100人とも1等粉で作ったうどんを選びます。
小麦粉について
(1)小麦粉の賞味期限
お店に並んでいる小麦粉の賞味期限を見ると、大抵、製造後1年間になっているようです。
もちろん、保存状態さえよければ、2年でも3年経っても、食べることはできると思います(賞味できるかどうかは別ですけど)。
ただ、実際にはそんなに長期間保管しておくと、最初にあった風味はとんでなくなってしまいます。古くなってしまうと、風味、艶、旨味などが消えてしまい、おいしいうどんはできません。
注意していただきたいのは、「どんなに良い小麦粉でも、時間が経てば良い小麦粉ではなくなる」という事実です(私はそう思います)。
たとえば、そばを考えてみてください。当たり前のことですが、そばは挽いて時間が経ったものよりも挽きたての方がいいと、誰もが思います。老舗のそば屋さんでは、玄そばの状態で保存しておき、そばを打つ前に、石臼で挽くところもたくさんあります。それは挽きたてが一番いい風味のそばを食べる方法だからです。コーヒーもそうです。コーヒーをたてる前に、挽いたコーヒーが、一番香りがいいのです。そしてそばもコーヒーも粒の状態では、長期間保存できますが、挽いた瞬間から劣化が始まります。
小麦粉も同様に考えることができます。そばやコーヒーほどの強烈な香りではないので、最初は意識しないとその違いははっきりとはわかりません。
しかし、挽いた瞬間から、劣化が始まり時間と共に小麦の風味はだんだんと薄れ、またグルテンももろくなっていきます。つまり、粒のままではいつまでもその状態を保つことができますが、一旦、粉になって空気にさらされてしまった時点から、酸化が始まり、徐々に品質が落ちていくのです。
特に高温多湿の夏季は、小麦粉にとって一番厳しい時期で、劣化が早く進みます。
それに加えて、うどん屋さんでの保管場所といえば、大抵厨房の近くにあるところが多く、条件は一層厳しくなり小麦粉が痛みやすくなります。
でも、一方では「小麦粉には熟成が必要じゃないか」という意見もあります。この主たる理由は、製粉したばかりの小麦粉は、酵素活性が強く、不安定な状態にあるので、使用する前に熟成期間が必要であるというものです。確かにその通りですが、現在では製造工程中において、強制的に多量の空気にさらされ、熟成が進むので小麦粉の状態では、以前ほどの熟成期間は必要ないとも言われています。いずれにしても、「小麦粉が古くなって、おいしいうどんができない」ことはあっても、「小麦粉が新しすぎてうどんができない」という声は、この辺りではまだ聞いたことは、ありません。
最初はどれも同じように見える小麦粉も、だんだん慣れ親しんでくると、挽きたての小麦粉は袋からとりだしたときに、ふんわりとして、小麦の風味が感じられるはずです。またうどんにして、釜入れしたときにも、小麦の香りがします。そして、淡いクリーム色を帯びた、艶のある、弾力に富んだ、そしてぷりぷりしたうどんができるのです。このようなうどんを打つためにも、できるなら製粉された後、夏場は1ヶ月、冬場でも2ヶ月を目安に使い切ってもらえるようにお願いしています。
(2)保管場所
小麦粉は生きています。同じ銘柄の小麦粉でも、季節によって水分も異なります。これは気温、湿度の関係でベストの製粉条件が異なるからです。
またたとえ同じ種類の小麦を原料に使用していても、ロット毎にビミョーに違うこともあります。つまり、厳密に言えば、同じ銘柄の小麦粉であっても、実際には少しずつ異なります。このように考えると小麦粉は、食品というよりも、むしろ農産物とか生鮮食料品と考える方がいいのかも知れません。
よって、保管場所は高温多湿を避ける、つまり涼しくて、湿度の少ないところになります。また、臭いもつきやすいので、気をつける必要があります。業務用であれば、高温多湿になりやすい厨房の中よりも、別の環境のよい部屋で、また直接床に置くのではなく、スノコなどを敷いて、空気の通りをよくしてやると、品質が保持できます。
では、究極の保存方法として、挽いたコーヒー豆と同じように、密閉してフリーザーで保管すれば鮮度を長く保持することも可能です。でもそこまですると、取り出した直後は小麦粉が冷えていて、水回しとか熟成がうまくいかないので、それはやりすぎだと思いますけど。
小麦粉の色は、一般には漠然と「白色」ということになっていますが、実際はそうではありません。片栗粉と並べてみると、小麦粉がいかに色がついているか、また片栗粉がいかに白いのかがよくわかります。
小麦粉の色は、どちらかというと淡黄色あるいは淡いクリーム色をしています。また同じ小麦粉といっても、小麦粉でも色々違います。小麦粉の色を決める要因は、ざっと次のようなものがあります。
1.小麦の種類
硬質小麦は表皮が赤褐色なのに対し、軟質小麦は明るい色をしています。このため硬質小麦は、「赤小麦」、軟質小麦は「白小麦」とも言われます。詳細については、小麦の種類をどうぞ。
で、小麦の胚乳の違いもあるし、また製粉時にはどうしても、ある程度の表皮の混入は避けられないので、同じグレードの小麦粉であれば、強力粉よりも薄力粉の方が、白くなります。
2.グレード
同じ種類なら、グレードの高い小麦粉の方が白くなります。詳細は新着情報#54をどうぞ。
3.粒度
小麦粉の粒の大きさ、つまり粒度が小さい程、光が乱反射するので白く見えると言われています。
4.鮮度
小麦粉の色は、鮮度によっても違います。つまり製粉してからの経過時間によって、小麦粉の色は変化します。
このように小麦粉の色の違いについては、いくつかの要因がありますが、今回はその中の鮮度に着目してみます。小麦の胚乳にはカロチノイド系色素が含まれていて、挽きたて、つまり製粉したての小麦粉はこのカロチノイドが発色して、淡黄色あるいは淡いクリーム色を呈します。これはただ眺めるだけよりも、ペッカーテストをしてやるとよくわかります。つまり、小麦粉をガラス板に「ぎゅっ」と押し付け、水につけてやります。こうやって水にさらされた色というのは、実際のうどんの色にも近くなるので、やってみることをお勧めします。
ただ、挽きたての特徴である淡黄色も、時間が経過するにつれて薄れて、だんだんと白くなります。これは、小麦粉が空気にふれて、酸化するためです。では実際にこの違いを確認してみましょう。
小麦粉Aは2006年11月28日に、また小麦粉Bは2007年2月2日に製粉したもので、これらを2007年2月3日にペッカーテストしました。つまりAは挽いて2ヶ月経過したもの、Bは挽きたて(厳密には2日後)の小麦粉です。
この古い小麦粉Aと新しい小麦粉Bを、ABABAの順番でサンドイッチにしたペッカーテストが次の画像です。このように並べた理由は、単に左右に並べるだけでなく、交互にした方が色の対比がよくできるからです。
結果は一目瞭然で、挽きたての小麦粉は、淡黄色であるのに対し、2ヶ月経過したものは、かなり漂白されているのがわかります。百聞は一見にしかずで、「淡黄色は新鮮さの証」であるというのがよく実感できます。ですから、みなさんも手打ちうどんを打つときは、できるだけ新しい小麦粉を使ってください。すると、淡黄色の「ぷりぷり」したうどんが賞味できます。
うどんについて
まずはズバッとお答えすると…
十分な加水、十分な混捏、そして十分な熟成
となります。それは当たり前だ・・・と、そう言わずに御覧ください。
小麦粉の中には、80種類以上ものたんぱく質が含まれていますが、この中で特に重要なのが、グルテニンとグリアジンです。
●グルテニン
抗張力が強く、引っぱって伸ばすのに強い力が必要です。
●グリアジン
軟らかくベトベトしています。
そしてこの2つが重要な理由は、これらが水と一緒になって「グルテン」という、小麦粉特有のたんぱく質を作り出すからです。
このグルテンは小麦粉だけに含まれる、たんぱく質で、他の穀物にはありません。だから小麦は特別なんです。
グルテンには弾力性と粘着性があり、この性質によって食パンは膨らむことができ、また冷えても縮まないでその形を保てます。うどんも同じです。小麦粉と塩水を混ぜ合わせ、捏ねることによって、グルテンが形成され、うどんは、つながっていることができます。つまり、グルテンは建物に例えると、鉄筋の役割をしていて、この鉄筋がうどんの形を支えているのです。
そして、この網目状のグルテンをしっかり形成するためには、生地の混捏(こんねつ)と熟成がポイントになります。混捏とは、混合と捏練、つまり、水合わせとその後の練りです。これを十分に行うことにより、網目状のグルテンが形成され、うどんをゆでたときに、でんぷん質が流されずに角が立ちます。但し、あまり、捏ねすぎたり、踏んだりし過ぎると、今度はうどんが硬くなるので、注意してください(過保護は禁物?)。
うどんの透明性(?)というか、つやについても、十分な加水(50%程度)で打ては、問題はないと考えます。ただ、最近は小麦粉に加工でんぷんを添加してうどんを作る場合もあります。加工でんぷんを加えることによって、うどんの透明感を増すことはできますが、これは注意が必要です。加工でんぷんは、無味無臭(本当は少し、加工時の臭いがありますけど)なので、入れるほど、相対的に小麦でんぷんが薄まることになります。結果として、うどんの旨味、甘味がなくなる場合があるので、十分に注意してください。
結論としては:
十分な加水、十分な混捏、そして十分な熟成、
これにつきると思います(なんか、あたりまえすぎてすいません)。いずれにしても、基本が重要ということでしょうか。 但し、鮮度のいい小麦粉を使用することもお忘れなく!
「うどんを切るとき、包丁にうどんがくっついて困った」という経験は、個人的にはあまりありません。もっとも、そんなに頻繁に打つわけでもないので、当然といえば当然です。ただ、この手のご質問は、結構問い合わせがありますので、ここでひとつ整理してみたいと思います。
さぬきでは、うどんを打つときの水加減は、小麦粉1kgに対し塩水500gが基本で、このとき加水率は50%であるといいます。ここに、塩水は500ccではなく500g、つまり体積ではなく、重さで量ります。どっちでもよさそうですが、塩水の濃度は9%~13%あるので、体積で量ると1割以上重くなり、生地の硬さにかなり影響がでます。
一般に機械製麺では 加水率は40%前後、手打ちだと50%程度といわれています。なぜ、こんなに違うかというと、機械の力はとっても強いので40%の加水で丁度いい塩梅に練ることができます。一方、人力(手練りともいいます)での、最適な加水は50%になります。逆に機械製麺で加水50%だと生地が柔らかくなりすぎて、作業性が落ち、また手練りの40%だと、硬すぎてなかなか生地がまとまりません。たとえ、できたとしても翌日は肩がパンパンに張って、仕事にならんと思います。
で、一般に手打ちの方が、機械製麺にくらべて美味しいといわれていますが、この大きな理由のひとつがこの加水率の差にあります。多くの水分を含んでいるので、熟成が進み、うどんのうま味が増します。ですからこれだけ加水量が多いので、切るときにくっつくのもまた自然なことです。ずいぶんと引っぱりましたが、くっつくのを防ぐ方法を次のように整理してみました。
(1)専用の麺切り包丁を使用する。
普通の家庭用で使用しているステンレス製の包丁は、どうしても押して切るので、麺を押しつぶすようになり、くっつきやすくなります。それに対し、麺切り包丁は、スパッと切れるので切断面がきれいになり、その結果角も立ち、うどんもおいしくゆであがります。
(2)切るときに、左手で強く押えすぎない。
当然ですが、切るときに上から押さえすぎると、生地がくっつきやすくなるのでご注意ください。
(3)専用の打ち粉を使用する。
うどんがくっつかないように、ふる粉を「打ち粉」といいます。昔は小麦粉を、打ち粉として使用していましたが、時間が経過すると、うどんと同化する、つまりだんごになってしまうという欠点があります。現在は、専用の打ち粉が販売され、愛好家の皆さんもよく使っています。ただ打ち粉といっても必要最低限、つまりうどんがくっつかない程度使用するのがコツです。打ち粉まみれのうどんだと、ゆで湯が粘りやすくなり、おいしくゆであがりません。
(4)屏風折りにした生地の上面に、少し多めの打ち粉をふる(図参照)
「包丁とうどん、正確には刃と切断面とくっつくのは、どちらも湿っているからです。包丁も最初はサラサラでも、うどん生地を何度か通過するうちに、ねばねばしてきて、うどんがくっつくようになります。そこで、屏風折にした上面に少し多めの打ち粉をふっておくと、包丁が入った切れ目から打ち粉が落ちて、刃と切断面に触れ、くっつくのを防止する」らしい・・・と、あるうどん屋さんから聞きました。
うどん作りにおける「練り工程」は、現在のところ「足踏み」が最適といわれています。
製麺機械はいろいろあるけど、どちらかというと製造能力重視で「手打ち」のビミョーなタッチまでは、まだ完全に再現できていません。
初めてうどんを作ったときは、恐る恐る適当に踏んでみたら、意外においしいうどんができ、嬉しくなった経験のある方もいらっしゃると思います。すると「次はもっと美味しいうどんを、打ってみたいな」と考え、次のような発想がでてくるのは当然のことです。
「もっと踏めば、更においしいうどんができるだろう」
そして、自分なりに工夫しながら、うどんを打ったら、更においしいうどんができ、ますますうどんづくりが楽しくなる方もいます。その後は、順調においしいうどんができ、「ひょっとしたら、そんじょそこらのうどん屋さんより美味しいかも?」なんて思うかも知れません。でも、そもそも製法が手打ちなので、確かにおいしいはずなのです。ただ、ある日、次のように感じる方もいます。
「いつもより、丁寧に踏んだのに、ちょっとうどんが硬い気がするなあ」
最初は意外でしたが、このようなご意見は、結構耳にします。特に真面目に、取り組んでいる方からよく聞きます。
結論から言うと、「生地を踏みすぎている」ケースがこれにあたります。十分なグルテンを形成するには、足踏みが最適です。
しかし、長時間踏みすぎると、今度は逆に生地が硬くなり、ゆでたとき、手打ちうどん独特のふっくらとしたソフト感がなくなってしまいます。ここに足踏みに対する誤解があると思います。
「踏めば踏むほど美味しくなる(なってほしい)」という気持ちはわかります。しかし現実には最適な足踏み回数というものがあります。
つまり「過ぎたるは及ばざるが如し」であり「過保護はうどんのためにならない」のも事実です。
では、最適な足踏み回数はいくらがいいんでしょうか?
これは、踏む人の体重にも、またそれ以上に、一度に練る小麦粉の量に影響されます。だって、ゆで時間にしても、鍋の大きさ、火力、ゆでるうどんの量などによって違うでしょ。
たとえば、1kg程度の小麦粉に500gの塩水を混ぜ合わせた生地は、50回も踏んだら、ぺっしゃんこになります。次にこれを折り重ねて、同様の工程を4~5回繰り返すともう十分で、逆にこれ以上踏むと良くありません。
この一連の足踏み工程は時間にすると5分程度で、案外、短く感じるかもしれません。しかし、団子(生地)が小さいときはこんなものです。
以前、問い合わせを受けた方の中には、この位の量で、「40分位踏んでいる」と答えられた方もいましたが、これは明らかに踏みすぎです。
実際に、ご自身で両方を踏み比べ、それをうどんにしてゆでてみたら、違いが実感できます。
逆に、個人ではなかなかありませんが、5kgの小麦粉を一度に練るときは、かなり足踏みしないと、うまくグルテンが形成されません。このあたりの感じは、何度か足踏み回数を変えながら、体感するしかありません。
以上まとめると、次のようになります。
(1) 「足踏み回数は多ければ多い程良い」というものではない。適正回数がある。
(2) 過保護は禁物。適当に踏んでやった方が、おいしくなることもある。うどんが硬いと感じたら、思い切って、足踏み回数を減らしてみる。
足踏み回数は生地の大きさに当然影響されるが、一般的なイメージよりも少なく、短時間で終了する。
多く踏めば踏むほど、おいしいうどんができてほしいという気持ちは理解できるけど、それはうどんのためにはならないという事です。
手打ちうどんをつくるとき、小麦粉に対して使用する塩水の重量%を加水率といいます。
例えば小麦粉 1kg に対して、塩水 500g を使用することを加水率 50 %といいます。さぬきでは、一応この加水率 50% というのが、手打ちの場合の基本となります。
考え方は色々あるでしょうが、加水率は 50% と決めておいて、後は水と食塩の比率で調整した方が、簡単です。機械で製麺するときは、加水率がずっと低くなり、通常 40% 前後になります。
この理由は、機械の力はとっても強いので、少ない塩水で生地を作ることができ、逆に 50% だと生地が柔らかくなり過ぎてしまうからです。一般に手打ちうどんは機械うどんに比べておいしいといわれていますが、この加水率の差が大きな理由の一つです。
●ルール1:小麦粉に対する塩水の重量%を加水率といいます。
●ルール2:手打ちうどんの加水率は 50% が基本です。
次に塩加減を示した、超有名な口伝に「土三寒六常五杯(どさんかんろくじょうごはい)」があります。これは茶碗一杯の塩に対して、夏は三杯の水で、冬は六杯の水で、そしてそれ以外は五杯の水で合わせなさいということです。でも、これを現在の塩にあてはめると、当然塩辛くなりすぎてうどんなんかできません。じゃあなんで昔はそうだったのかというと、昔の塩は、「ぎゅっ」と握るとすぐに固まるくらい水分を含んでいたので、この口伝で丁度いい塩梅であったと考えます。
それはともかく、この口伝の通り、夏場の気温が高いときは、塩を多くし、また加える水の量は逆に少なくします。理由は、塩にはグルテンを強靭にして、生地を引き締める効果があるからです。つまり、気温が高くなると、生地がだれやすくなるので、それを防ぐために、塩を多く、また水分を少なくします。
●ルール3:気温が高くなると、生地を引き締め、グルテンを強化するために塩を多くする。
●ルール4:気温が高くなると、生地がだれるのを防ぐために水を少なくする。
で、一般には 1kg の小麦粉に対し、冬場は10%濃度塩水(食塩50gと水450g)、夏場は13~15%濃度塩水(食塩65~75g、水435g~425g)、そしてその他の季節にはこの間で対応します。
もちろん、小麦粉に含まれている水分、気温、湿度などにも影響されるので、これはあくまでも一応の目安です。また、最近は空調設備も完備され、年中同じ濃度の塩水を使用することも可能です。
●ルール5:基本的な塩加減は次のように設定する。
小麦粉 | 塩 (g) | 水 (g) | 塩水 (g) | 塩水濃度(%) | |
---|---|---|---|---|---|
春・秋 |
1kg
|
60
|
440
|
500
|
12 %
|
夏 |
1kg
|
70
|
430
|
500
|
14 %
|
冬 |
1kg
|
50
|
450
|
500
|
10 %
|
ここに挙げた数値はあくまでも基準なので、好みに応じて変更するのは構いません。しかし、絶対に勘だけで塩水の量は決めないでくださいね。
●ルール6: おいしいうどんは、まず正しい計量から。勘には頼らない。
あと小麦粉の種類によって、加水量が若干変化します。基本的な考え方は次にように覚えてください。
小麦粉は水と一緒に捏ねることにより、小麦粉の中のたんぱく質、グリアジンとグルテニンが水と一緒になってグルテンとなります。つまり、たんぱく質の多い小麦粉は、それだけ多く水が必要と考えてください。逆にたんぱく質の少ない「さぬきの夢2000」などは気持ち加水を減らしてやります。
●ルール7: たんぱく質の多い小麦粉は、水を気持ち多めに合わせる。
また、たんぱく質(グルテン)が少ない小麦粉には、塩を若干多くして、グルテンの働きをできるだけ大きくする必要があることがわかります。ルール5が ASW を基本とした塩水の調合だとすると、「さぬきの夢 2000 」などの内麦粉は ASW に比べたんぱくが少ないので、冬場でも加水量 47 ~ 48% (食塩 60g 、水 410 ~ 420g 、塩水濃度 13% 弱)あたりを基準にするとうまくできます(ルール2に反しますがどうかご勘弁!)。
ただ、この加水率では水回し(混合)が終わった直後では、生地がまとまりにくいかも知れません。このときは、水回しが終わったそぼろ状の状態でビニールにくるんで、暖かい場所で15~ 30 分程度放置します。すると水和(水が小麦粉の隅々までしみ込むこと)が進み、だんごがうまくできるようになります。この工程を「予備熟成」または「そぼろ熟成」と呼ぶことがあります。普段でも「予備熟成」をすることにより、もっとおいしいうどんができるようになります。特に冬場の冷え込む時期は「予備熟成」をすることにより作業がやりやすくなります、というより「予備熟成」なしでは難しいかもしれません。水回し直後に、「ちょっと水が足りないかな?」と思って水を足すと、軟らかくなりすぎることがあるのでご注意ください。
手打ちうどんでは、水回しが一番難しいとされています。
だからこの水回しがうまくいけば、半分以上成功したようなものです。この水回しを上手くするためにも、塩水の調合はとっても大事であることを覚えておいてください。