小麦の製粉方式はこれまで、「サドルカーン→石臼→(ラッメリ製粉機)→(ベックラー製粉機)→ロール式製粉機」と進化してきましたが、その根本となる粉砕作業は、どれも「剪断力」つまり挽き裂く力によって、おこなわれています。そこでそれぞれの機械の違いによって剪断力がどのように働くのかまとめてみました。 蛇足ながら、以下「接触部分」と表現しているところがありますが、実際には僅かの「間隙」があります。

 

①サドルカーン 発明時期:紀元前三千年紀
これは洗濯板のような石板の上に小麦を置き、上石を使って擦るようにして挽きます。イメージとしては大根とか生姜を摺っているような感じです。この場合は、下石が固定され、上石が前後運動するのでそこに剪断力が発生します。

②石臼 発明時期:紀元前6~8世紀
既に何度もみたように、下臼は静止した状態で上臼が回転することによって剪断力が生まれます。

③ラメッリ製粉機 発明時期:1588年
これは先をカットした円錐型ローラーを使用。ローラーの側面の角度は、それを覆っている内壁のそれよりも大きいので、内壁との接触部分は、その先端の円周部分になります。円錐型ローラーが回転し、内壁は静止しているので、両者の接触部分である円周部分に剪断力が生じます。

④ベックラー製粉機 発明時期:1662年
シリンダー型(円柱)ローラーを内壁に接するように設置すると、ローラーと内壁との接触部分は、シリンダーの側面部分の直線になります。このシリンダーが回転し、内壁は静止しているので、この直線部分に剪断力が生じます。

⑤ロール式製粉機
現代のロール製粉機は、一対のシリンダー型ローラーが並行して設置され、それが内側に回転して小麦を挽きます。このロールは速差ロールといい、2つのロールの回転速度が異なります。例えば速い方が400rpm(毎分400回転)、遅い方が200rpmとすると、これは片方が静止して、もう片方がその速度差の200rpmで回転していることと同じです。よってここに剪断力が生じます。しかも両方のロールが回転しているので、それだけ速く小麦をかき出すことができるので、より多くの小麦を製粉できることになります。

もし両方のロールが同じ速さなら、その間を通過してもスルメみたいに延びるだけで、剪断力は生まれません。
さて、ここでこの4つを1つにグループ分けするとなると、どこで線引きするのがいいでしょうか。文明的に見て、もっとも大きなインパクトを与えた点に着目するならば、①サドルカーンと②石臼の間に大きなギャップがあります。往復運動から回転運動になることによって、畜力の利用が可能になり、その生産量は飛躍的に伸びました。またその後は水力、風力などの自然の力を動力として利用できるようにもなりました。そういった意味で、この回転運動への転換は歴史的に見ても画期的な大発明です。

しかし挽いた小麦粉の品質に着目すれば、他の分類方法も可能です。それは②石臼と③ラッメリ製粉機との間です。この分類のポイントは、小麦を粉砕するときの粉砕部分が「面」であるのか、それとも「線」であるかの違いです。つまりサドルカーンも石臼も粉砕部分は「面」同士が擦れあっています。石臼だと中心部分に落ちた小麦は、上臼と下臼とに挟まれ、擦られながら外に放り出されます。このとき何が起こっているかといえば、最初の内に挽き裂かれた表皮の部分は、その後も外に放り出されるまでは粉砕面で挟まれ続けているので、どんどん細かくなります。そしてその一部は小麦粉と同じくらい細かくなって、後でふるい分けようとしても、できなくなります。つまりそうなってしまうと、もう表皮と胚乳部分の分離は不可能です。

一方、ラッメリ製粉機、ベックラー製粉機、現代のロール製粉機は、粉砕部分は「面」ではなく「線」なので、粉砕される時間はほんの「一瞬」です。これはどういうことかといえば、ロールを通過した直後の挽かれた小麦(これをストックといいます)を、直ちにふるい分けると胚乳部分と表皮との分離が可能になります。この技術によって、小麦粉の中にふすま片が混入するのを防ぐことができ、現代の小麦製粉は、この細かなふるい分けを繰り返しおこない、一粒の小麦を最終的には40種類前後の最終製品に採り分けます。滑らかな喉ごしの良いうどんも、言ってみればこの粉砕とふるい分け技術のお陰です。

それにしても、ラメッリ型、ベックラー型、そして現代のロール製粉機を比べると、どうみてもロール製粉機の方が簡単な構造に見えます。ラメッリのように円錐型ロールを使ってその先端部分で小麦を挽こうという着想は、なかなか生まれません。ただロール製粉機は構造は簡単ですが、「速差ロール」という発想がなかなか生まれなかったのかも知れません。製粉技術についてもコロンブスの卵がその辺にごろごろ転がっています。