#064 手打ちうどんの加水率
手打ちうどんをつくるとき、小麦粉に対して使用する塩水の重量%を加水率といいます。例えば小麦粉 1kg に対して、塩水 500g を使用することを加水率 50 %といいます。さぬきでは、一応この加水率 50% というのが、手打ちの場合の基本となります。考え方は色々あるでしょうが、加水率は 50% と決めておいて、後は水と食塩の比率で調整した方が、簡単です。機械で製麺するときは、加水率がずっと低くなり、通常 40% 前後になります。この理由は、機械の力はとっても強いので、少ない塩水で生地を作ることができ、逆に 50% だと生地が柔らかくなり過ぎてしまうからです。一般に手打ちうどんは機械うどんに比べておいしいといわれていますが、この加水率の差が大きな理由の一つです。
ルール1:小麦粉に対する塩水の重量%を加水率といいます。
ルール2:手打ちうどんの加水率は 50% が基本です。
次に塩加減を示した、超有名な口伝に「土三寒六常五杯(どさんかんろくじょうごはい)」があります。これは茶碗一杯の塩に対して、夏は三杯の水で、冬は六杯の水で、そしてそれ以外は五杯の水で合わせなさいということです。でも、これを現在の塩にあてはめると、当然塩辛くなりすぎてうどんなんかできません。じゃあなんで昔はそうだったのかというと、昔の塩は、「ぎゅっ」と握るとすぐに固まるくらい水分を含んでいたので、この口伝で丁度いい塩梅であったと考えます。
それはともかく、この口伝の通り、夏場の気温が高いときは、塩を多くし、また加える水の量は逆に少なくします。理由は、塩にはグルテンを強靭にして、生地を引き締める効果があるからです。つまり、気温が高くなると、生地がだれやすくなるので、それを防ぐために、塩を多く、また水分を少なくします。
ルール3:気温が高くなると、生地を引き締め、グルテンを強化するために塩を多くする。
ルール4:気温が高くなると、生地がだれるのを防ぐために水を少なくする。
で、一般には 1kg の小麦粉に対し、冬場は 10% 濃度塩水(食塩 50g と水 450g )、夏場は 13 ~ 15% 濃度塩水(食塩 65 ~ 75g 、水 435g ~ 425g )、そしてその他の季節にはこの間で対応します。もちろん、小麦粉に含まれている水分、気温、湿度などにも影響されるので、これはあくまでも一応の目安です。また、最近は空調設備も完備され、年中同じ濃度の塩水を使用することも可能です。
ルール5:基本的な塩加減は次のように設定する。
小麦粉 | 塩 (g) | 水 (g) | 塩水 (g) | 塩水濃度(%) | |
---|---|---|---|---|---|
春・秋 |
1kg
|
60
|
440
|
500
|
12 %
|
夏 |
1kg
|
70
|
430
|
500
|
14 %
|
冬 |
1kg
|
50
|
450
|
500
|
10 %
|
ここに挙げた数値はあくまでも基準なので、好みに応じて変更するのは構いません。しかし、絶対に勘だけで塩水の量は決めないでくださいね。
ルール6: おいしいうどんは、まず正しい計量から。勘には頼らない。
あと小麦粉の種類によって、加水量が若干変化します。基本的な考え方は次にように覚えてください。小麦粉は水と一緒に捏ねることにより、小麦粉の中のたんぱく質、グリアジンとグルテニンが水と一緒になってグルテンとなります。つまり、たんぱく質の多い小麦粉は、それだけ多く水が必要と考えてください。逆にたんぱく質の少ない「さぬきの夢2000」などは気持ち加水を減らしてやります。
ルール7: たんぱく質の多い小麦粉は、水を気持ち多めに合わせる。
また、たんぱく質(グルテン)が少ない小麦粉には、塩を若干多くして、グルテンの働きをできるだけ大きくする必要があることがわかります。ルール5が ASW を基本とした塩水の調合だとすると、「さぬきの夢 2000 」などの内麦粉は ASW に比べたんぱくが少ないので、冬場でも加水量 47 ~ 48% (食塩 60g 、水 410 ~ 420g 、塩水濃度 13% 弱)あたりを基準にするとうまくできます(ルール2に反しますがどうかご勘弁!)。
ただ、この加水率では水回し(混合)が終わった直後では、生地がまとまりにくいかも知れません。このときは、水回しが終わったそぼろ状の状態でビニールにくるんで、暖かい場所で15~ 30 分程度放置します。すると水和(水が小麦粉の隅々までしみ込むこと)が進み、だんごがうまくできるようになります。この工程を「予備熟成」または「そぼろ熟成」と呼ぶことがあります。普段でも「予備熟成」をすることにより、もっとおいしいうどんができるようになります。特に冬場の冷え込む時期は「予備熟成」をすることにより作業がやりやすくなります、というより「予備熟成」なしでは難しいかもしれません。水回し直後に、「ちょっと水が足りないかな?」と思って水を足すと、軟らかくなりすぎることがあるのでご注意ください。
手打ちうどんでは、水回しが一番難しいとされています。だからこの水回しがうまくいけば、半分以上成功したようなものです。この水回しを上手くするためにも、塩水の調合はとっても大事であることを覚えておいてください。