かなりいい線までいっていたレバーミルですが、いくつか欠点がありました。例えば挽いたあとの粉を取り除く手段がなかったので、どんどん溜まっていきます。また上石は下石の上に直接、載っかっているので粉の粒度を調整する術がなく、ふすま(表皮)は胚乳と一緒に挽き込まれてしまい、品質的にも今一でした。

しかしレバーミルの最大の問題点は、動きそのものが連続ではなく往復運動だったことで、労力が充分に生かし切れなかったことです。どういうことかと言えば、牛や馬は前進し続けるのは得意ですが、規則正しく前へ行ったり後ろに戻ったりするのは苦手です。つまり「このレバーを押したり引いたりしてよ」といっても理解してもらえないのです。だからレバーミルのような道具には畜力、つまり動物の力は利用できません。

しかしこれが円運動になれば、ただ前進のみでいいので畜力の利用が可能になります(ストーク先生の言葉を借りると、弧状運動のレバーミルと回転運動の挽き臼との間には、大きな知的隔たりがあります)。

回転運動を利用して考案された初期の粉砕機には、図のようなチリーミル、デリアンミル、アワーグラスミルなどがあります。チリーミルはみてわかるように、ただ単に上から押し潰すだけなので、穀物の粉砕には不適で、主として硬い鉱石などの粉砕に使用されたようです。また南米でよく使われたことがその名前の由来です。デリアンミルは、ギリシャのデロス島で多く発見されています。これは火山岩の石片を集め、それを環状に縛り使用しました。しかしこれも上石は下石の上に直接載っかっているだけなので、小麦のでんぷん質は著しく傷つき、また「ふすま」も挽き込まれて品質的には良くなかったようです。

このような回転運動を利用した粉砕機のうち、最初のヒット商品はアワーグラスミルでした。回転式の粉砕機を実用化する上での最大の難関は、二つの粉砕面を如何に平行に維持できるか、つまり二つの粉砕面の間隙を一定に保てるかということでした。これに対するギリシャ人の答は、「二つの円錐状の石を重ねる」でした。上石はリンズ(軸受け機構)により下石の上で支えられているので、2つの石の間は粉砕の空間が確保され、これによりでんぷん質は過度に押し潰されることがなくなりました。また上石上部には下石と同じくらいのホッパーを取り付けたので、全体として砂時計(アワーグラス)のような形状になり、これが名前の由来です。そしてこれらの技術革新がその後の製粉技術発展の基礎になりました。

もちろんアワーグラスミルにも、いくつか欠点はありましたが、既存の粉砕機に比べると格段に進歩したので、ギリシャやローマ時代においては、永い間支持されました。ギリシャ時代には上石のことをロバを意味するオノス(onos)と呼んでいたそうですが、この事実からも回転運動が採用されると間もなく、畜力が利用されていたことがわかります。よってアワーグラスミルの画期的な点をまとめてみると次のようになります。

① リンズ(軸受け機構)の利用により2つの粉砕面の間隙を一定に保つことができ、小麦粉の品質が向上した。
② 回転運動の採用により、畜力の利用が可能になり、生産性が向上した。